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想像と想像と想像 #28

「闇バイト」

前回、僕がヤクザたちに献金しているというお話をさせていただいた。
前回の投稿から3日ほど空いてしまったのは、その罪の重さに苛まれてしまったからである。
決して、noteを書くのがめんどくさかったからではない。
僕の罪を洗いざらい話すため、今回は闇バイトに参加した経験をお話ししよう。

闇バイトには、2つほど手を染めた。
まず、全家庭で取り扱われたブツを収集する闇バイトである。
この仕事は、基本2人1組で行う。
まず、ブツを収集するトラック運転手。
これは、この道10年ほどのベテランが担当する。
我々下っぱは、トラックに同乗し、家ごとのブツをトラックから降りて回収して行くのが仕事であった。

そう聞かされて仕事に向かった僕は、驚くべき事実に直面する。
トラックに滅多に同乗させてもらえないのである。
では、どうやって家を回って行くかというと、トラックの後ろを走って着いて行くのである。
仕事の時期は、7月。
猛暑日に近い気温である。
それも、ブツをトラックの後ろで収集して行くため、ものすごい匂いが立ち込めているのだ。
僕はここで、闇バイトの恐ろしさを体感した。

また、燃えるブツと燃えないブツを仕分けなかったり、燃えるブツの中に危険物を入れている場合もあった。
トラックの後ろにそのブツを入れてしまうと、巻き込み口から異物たちが飛び出してくるため、僕は不快感を抑えることができなかった。その日以来、僕はブツの分別や水やジュースの入っているブツの取り扱いには注意している。

このバイトの本当の闇は、これだけではない。
まず、東京都の最低賃金を100円ほど下回っている点である。
朝から夕方まで働いて、8000円ほどしか貰えなかったことには愕然とするしかなかった。
次に、交通費という概念がない点である。
三鷹駅まで行き、そこからバスで移動する必要のあるその会社へは、片道400円ほどかかったであろう。
にも関わらず、交通費は一切出ないのである。
実質、日給7000円の闇バイトである。

次の闇バイトは、クリスマスで食べる丸くて甘くて白いブツを作っている企業である。
うちの大学でも、よく闇バイトの勧誘をこの企業がしているらしい。
みなさんご存知の、ヤマ◯キ製パンである。

出勤当日、朝目を覚ますと大雨が降っていた。
チャリで行くことを諦め、ブツを作っている工場の場所を調べる。
住所は、東久留米市であった。
当時、上京したてだった僕は、国分寺の一個北の市であるという事実だけで、徒歩で行くことを決心した。
この辺の地理を少しでも知っている人であれば、結果は想像に安かろう。
工場に到着するまでに、1時間30分はかかった。
あほである。

なんとか時間前に到着したものの、僕の服と靴は壊滅していた。
そんな状態で始まった2回目の闇バイト。
午前の僕の仕事は、苺のヘタ取りであった。
「なんだ、楽すぎるじゃん」
そう考えていた僕の目論見は、開始10分も持たずして崩れ去った。

最初に、苺のヘタ取りのコツを教わる。
ただ、結論から言うと、コツもくそもないのである。
そんな、幼稚園児でも出来る作業を3時間も行う。
しかも、周りの主婦たちは誰も話さずに作業に集中しているため、話し相手は1人もいない。
人間は、極度に暇になると、ろくなことを思いつかないものである。
僕が3時間考え続けたのは、まばたきについてであった。
まず、人は1分間で何回まばたきをするのか検証した。
ただ、検証しているという事実が頭に刷り込まれているため、まばたきの回数が普段よりも多くなっている気がしてしまう。
そのため、僕は何度も検証し直した。
次に、まばたきをしないでどれくらい耐えられるかの検証である。
僕は、1分間まばたきをしないことを目指して努力し続けた。
その結果、僕の目は苺なみに充血していたことだろう。
そんなこんなで、なんとか午前を乗り切った。

昼休憩を挟んで、午後の仕事に向かう。
午後の仕事は、永遠に回ってくるブツの上に、さらにブツを足していくという作業であった。
この作業では、隣のお爺さんが開始早々話しかけてくれた。
「これはなんとかなるぞ」
この目論見も、お爺さんの一言目から崩れ去ることとなった。

「◯×◯◯?」
工場の機械音とお爺さんの滑舌が相まって、全く聞き取れなかったのである。
ただ、疑問系であることは理解できたため、僕は
「そうです!」
と、ある程度の疑問系に対応できそうな言葉を選んで回答した。

お爺さんは満足そうに頷いている。
これで正解だったらしい。
受けごたえをする若者が珍しかったのか、お爺さんは何度も僕に質問してきた。
質問であることだけが分かっていても、内容が分からないのであれば会話になるはずがない。
しかし、そこは僕の得意分野である愛想笑いと、「たしかに」「なるほど」という伝家の宝刀を用いて、なんとか午後の時間を乗り切った。

生産ラインから離れて、更衣室へ向かって歩いていると、先ほどのお爺さんが話しかけてきた。

「家庭のこととか聞いちゃってすまんね」

結構プライバシー満載の話をしていたらしい。
先に着替えを済ませたお爺さんは、

「兄ちゃん!お母さんの具合良くなって学校行けるといいな!」

と言って肩を叩き、工場を後にしていった。

僕は、どんな悲劇のヒロインになっているのか。

雨が降り続ける帰りの1時間30分。backnumberのハッピーエンドを聴きながら、悲劇のヒロイン気分を少しだけ堪能した。

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