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想像と想像と想像 #16

「あたまのわるい食べ物」

僕には基本的に苦手な食べ物がない。
とろろ、にんじん、チョコの3つが嫌いなくらいで、我慢すればなんでも食べられる。
このような素晴らしい舌にしてくれた母親の食育には、本当に頭が上がらない。

だが、僕には味以外で嫌いな食べ物のジャンルがある。
それは、丼ものである。
なぜかと問われると説明が難しい。
少し抽象的にはなってしまうが、今日は丼ものの嫌な部分をお話しよう。

僕の考える丼ものの利点は、作りやすさと味の濃さ、満腹感の3つである。
この3つを満たすことができる丼ものは、大学生にとってお酒ぐらい必要不可欠なものとも言える。
ただ、僕はこの3つの利点を満たしていることに対して、強い不快感を覚えている。

なぜなら、
「この3つの利点さえ満たしていれば、大学生は喜ぶだろう」
という安易な発想が見え隠れしているからである。
美味しそうに丼ものをかきこみ、満足げな顔をしている大学生は、世間の大学生への偏見にまんまとハマっているのである。

この事実に気がついた時、僕は丼ものを美味しそうに食べていた自分が途端に恥ずかしくなった。
「学芸大丼」という貧相な名前の、ただお米に唐揚げを載せただけの丼ものを、僕は2年間美味しそうに食べ続けていたのだ。
大学生協の罠にまんまとハマってしまっていたのである。

そんな僕が、この世で最も毛嫌いする丼ものは学芸大丼ではない。
そう、タイトルにもなっているローストビーフ丼である。

ローストビーフ丼とは、ご存じの方も多いだろうが、ご飯の上にローストビーフとタレ、卵黄を乗っけただけのものである。
この丼ものは非常に頭が悪い。

絶対に別で食べた方が美味しいに決まっているにもかかわらず、とりあえず丼にすれば食いつく奴がいるという企業側の魂胆が見え見えの一杯なのである。

そんな企業側の罠にまんまとハマり、注文した情けない僕。
ローストビーフ丼が到着するまでの間、これまでにない後悔に襲われ、舌を噛み切ろうとさえしていた。

そこにローストビーフ丼が到着する。
一思いに卵黄を割ると、卵黄は美しいローストビーフたちの上で、気持ちよさそうに泳ぎ始めた。
そんな卵黄たちをローストビーフで包み込み、タレの染みたごはんと一緒に口に運ぶ。
するとどうだろう。
さっきまでの威勢はどこに行ったのだろうか。
あまりの美味しさに、僕は卵黄とローストビーフの大海に向かって白旗を振っていた。

本音を言うと、味の濃い料理の英才教育を18年間受けてきた僕は、丼ものという単純なバカ舌だましの料理が大好きなのである。
好きな食べ物の上位に、オムライスやカレーといったご飯に味のついているものを選ぶレベルのバカ舌である。

そんな僕は、明日も学食で胸を張ってこう声高に叫ぶだろう。

「学芸大丼、大盛りで」

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