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想像と想像と想像 #6

「右足」

僕は中学から高校まで6年間陸上部で、長距離ランナーだった。
そのおかげか、一切運動しないこの2年半、どんなに激しい運動をしてもなかなか筋肉痛にならない体の持ち主であった。
唯一筋肉痛になったのは、ごみ収集の単発バイトに行った時だけである。

そんな筋肉年齢17歳の僕は、筋肉疲れ知らずの大学ライフをエンジョイしていた。
一昨日のカラオケでも僕は存分にはしゃいだ。
30分ほどのYOASOBIメドレーでは、右足一本で飛び続けたのである。
流石の僕でも筋肉痛を覚悟して、眠りについた。
次の日目覚め、恐る恐る右足を床につけた時、
「痛くない」
やはり僕の筋肉は疲れ知らずなのだ。
寝起きで半信半疑なので、ゆっくり準備した後、自転車を漕いでみた。
「痛くない」
久しぶりに自分を誇らしく思った瞬間だった。
こうなると次のnoteのテーマは
「筋肉痛知らずの僕」
で決定である。

そして運命の今日。
スヌーズ機能を止めるために目を覚ますと、
時計は10:15を指していた。
まずい。
自宅から学校まで2分ほどで行けるとはいえ、着替える時間なども含めるとギリギリである。
初回授業遅刻の失態を避けるために、僕は勢いよく体を起こし、床に足をつけた。
次の瞬間、僕は何が起こったのか分からなかった。
体が、右に傾いているのである。
右足が僕の体重を支えきれていないようだ。

なに!?

ヤジロベーにサイヤ人の象徴である尻尾を切られた時のベジータの気持ちが、初めて理解できた。
少し冷静になった僕は、ようやくことの次第に気がついた。
寝ぼけていて痛みを感じていないだけで、右足に強烈な痛みがあり、体重を支えることができていないのだと。
ただ、今の僕にぼさっとしている時間はない。
気合いだけで服を着、歯を磨いて髪に水をぶっかけてチャリに飛び乗る。
勢いよくペダルを踏む。
ぐんぐーん。
よし、これなら間に合いそうだ。
勢いよくペダルを戻す。
いや、戻らない。
愕然としながら右足を眺めると、太ももの裏がピクピクしているのがわかる。

なるほど。そういうことか。
筋肉痛が翌日ではなく2日後にくる。
つまり、僕の筋肉年齢は17歳なんかではない。
ただの痛みを感じにくいおじさんだったのである。

授業に間に合わせることを諦めて、右もも裏を労わりながら学校に向かっていると、同じ授業を受ける友人とばったりあった。

「4階はだるいわ」

彼はそう言いながら、急いでいるため2段飛ばしで階段を駆け上っていく。

「ちょまてよ」

だんだん小さくなる彼の背中を見ながら、僕は「青春」を感じていた。



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