感染症法による入院措置の対象が限定的になります

「新型コロナウイルス感染症を指定感染症として定める等の政令の一部を改正する政令」の改正が公布されました。10日後の10月24日から施行されます。これにより、新型コロナウイルス感染症患者に対しての感染症法による入院措置の対象が、無症状や軽症の場合は主に高齢者や基礎疾患のある方、そして中等度、重症の方に限定されることになります。とは言っても、医療上の観点、まん延防止上の観点から一定の裁量が残されており、これらの要素が当てはまらない方に全く措置が執れないというものではなく、また、入院措置の対象とはならない方についても、宿泊療養を基本、または自宅療養をお願いするものであり、これまでの運用と大きく変わるものではありません。無症状や軽症でも、周囲の人に感染させないために、人との接触機会を一定期間避ける行動が求められます。

これまでの運用

新型コロナウイルス感染症については、感染症法の「指定感染症」に指定され、疑似症(症状あるけど病原体未確定)、無症状病原体保有者(病原体確定しているが症状なし)の方も含めて、「患者」として入院措置の対象とされてきました。
一方、3月1日付の事務連絡では、地域での今後の感染拡大を見据え、

地域での感染拡大の状況によっては、高齢者や基礎疾患を有する者など以外の方で、症状がない又は医学的に症状が軽い方(以下 「軽症者等」という。)には、PCR 検査陽性であっても、自宅での安静・療養を原則 としつつ、高齢者や基礎疾患を有する者等への家庭内感染のおそれがある場合には、 入院措置を行うものとする

という対策移行の考え方が示され、「新型コロナウイルス感染症の軽症者等に係る宿泊療養及び自宅療養の対象並びに自治体における対応に向けた準備について」(令和2年4月2日付け事務連絡)において、「必ずしも入院勧告の対象とならない」対象者の考え方が示されて、それぞれの自治体で運用されてきました。

○ 以下の者については、必ずしも入院勧告の対象とならず、都道府県が用意す
る宿泊施設等での安静・療養を行うことができる。
・無症状病原体保有者及び軽症患者(軽症者等)で、感染防止にかかる留意点が遵守できる者であって、
・原則1から4までのいずれにも該当せず、帰国者・接触者外来又は現在入院中の医療機関の医師が、症状や病床の状況等から必ずしも入院が必要な状態ではないと判断した者※
1 高齢者
2 基礎疾患がある者(糖尿病、心疾患又は呼吸器疾患を有する者、透析加療中の者等)
3 免疫抑制状態である者(免疫抑制剤や抗がん剤を用いている者)
○ 軽症者等である本人が重症化するおそれが高い者(上記1から4までに該当する者をいう。)(以下「高齢者等」という。)に該当しない場合であっても当該軽症者等と同居している者の中に高齢者等がいることが確認された場合には、利用可能な入院病床数の状況を踏まえて入院が可能なときは、入院措置を行うものとする。
※ 発熱、呼吸器症状、呼吸数、胸部レントゲン、酸素飽和度SpO2等の 症状や診察、検査所見等を踏まえ、医師が総合的に判断する。

詳細は、以下に記載しておりますのでご参照ください。

指定感染症に関する政令改正の背景

8月28日に政府対策本部により、「新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組」が示されました。その中で、入院措置の運用についても運用の見直しが提起されました。

1. 感染症法における入院勧告等の権限の運用の見直し
〇 新型コロナウイルス感染症については、指定感染症として行使できる権限の範囲が、当時の医学的知見を踏まえ、結核や SARS、MERS といった二類感染症以上となっている。今後、これまでに把握されている医学的知見や有識者の意見を踏まえ、まん延防止を図りつつ、保健所や医療機関の負担の軽減や病床の効率的な運用をさらに図るため、軽症者や無症状者について宿泊療養 (適切な者は自宅療養)での対応を徹底し、医療資源を重症者に重点化していくこととし、こうした方向性の下、季節性インフルエンザの流行期も見据 え、感染症法に基づく権限の運用について、政令改正も含め、柔軟に見直し を行っていく。
(令和2年8月28日 新型コロナウイルス感染症に関する今後の取組)

これを受けて、厚労省のアドバイザリーボードの下に「指定感染症としての措置・運用の在り方に関するワーキンググループ」が設置され、議論が進められてきました。そして、厚生労働科学審議会感染症部会の議論を経て、政令改正に至ったところです。

政令改正の概要

今回の政令改正で、新型コロナウイルス感染症患者の入院の勧告・措置の対象者が以下の方に限定されることになります。

まずは、医療上の観点からの対象が示されています。

(1)65 歳以上の者、呼吸器疾患を有する者その他の厚生労働省令で定める者 
具体的には、以下のいずれかに該当する者である。
1. 65歳以上の者
2. 呼吸器疾患を有する
3. 上記2に掲げる者のほか、腎臓疾患、心臓疾患、血管疾患、糖尿病、高血圧症、肥満その他の事由により臓器等の機能が低下しているおそれがあると認められる者
4 臓器の移植、免疫抑制剤、抗がん剤等の使用その他の事由により免疫の機能が低下しているおそれがあると認められる者
5 妊婦
6 現に新型コロナウイルス感染症の症状を呈する者であって、当該症状が重度
又は中等度
であるもの
7 上記1から6までに掲げる者のほか、新型コロナウイルス感染症の症状等を
総合的に勘案して医師が入院させる必要があると認める者
8 上記1から7までに掲げる者のほか、都道府県知事が新型コロナウイルス感
染症のまん延を防止するため入院させる必要があると認める者

加えて、まん延防止の観点からの対象が示されています。

(2)上記(1)以外の者であって、当該感染症のまん延を防止するため必要な事項として厚生労働省令で定める事項を守ることに同意しない者
「厚生労働省令で定める事項」は、次のとおりである。

ア 指定された期間、指定された内容、方法及び頻度で健康状態を報告すること
イ 指定された期間、指定された場所から外出しないこと
ウ 上記ア及びイに掲げるもののほか、新型コロナウイルス感染症のまん延を防
止するため必要な事項

(2)の観点から、入院対象外の人であっても、このア、イ、ウを守ることが求められる、ということになります。

通知の最後には以下の記載があります。

新型コロナウイルス感染症の無症状病原体保有者及び軽症患者で入院が必要な状
態ではないと判断される者については、引き続き、宿泊療養又は自宅療養を求める
こと。

では、宿泊療養か、自宅療養のどちらが原則かといえば、Q&Aでは「宿泊療養を基本として対応をお願い」としています。

宿泊療養や自宅療養の対象者については、これまでと変更はなく、軽症者や
無症状病原体保有者のうち、重症化の恐れが高い人に該当せず、医師が入院の必要がないと判断した方については、宿泊施設や自宅での療養を求めること としています。
○この場合、家庭内での感染事例が発生していることや症状急変時の適時適切な対応が必要であることから、宿泊療養を基本として対応をお願いしていますが、宿泊療養か自宅療養のいずれの対応となるかは、軽症者等と同居して いる人の状況、都道府県が用意する宿泊施設の受入可能人数、軽症者等ご本人の意向等も踏まえて、都道府県において調整いただくことになります。
(新型コロナウイルス感染症の感染症法の運用の見直しに関するQ&A)

以上のように、入院措置の対象は「限定的」にはなりましたが、入院対象とはならない無症状者、軽症者、(そして濃厚接触者の方)についても、まん延防止のため、一定期間人との接触を避けるなど、周囲に感染させないための行動が引き続き求められます。