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奈良クラブを100倍楽しむ方法#002 第2節 対長野パルセイロ

 さて、第2節。相手は長野パルセイロである。昨年の結果は2勝でシーズンダブルを達成している相手なので、目標は勝つことのみである。しかし、長野は開幕戦、奈良と同じく黒星スタートなだけに、お互いに「内容よりも勝ちたい」というマインドでの一戦である。


試合前の狙い

 長野は前節の琉球と同じく3バックで布陣するため、ここの修正を奈良クラブがどのようにするかが一つのチェックポイントであった。フリアン監督は後半から出場した國武選手を先発起用。また、センターバックは伊勢選手に代えて澤田選手。GKにマルク・ヴィト選手を起用。展開を見るに、スピードとボール捌きを優先したように思う。おそらく、3バックに対しては3トップではめに行く、もしくは國武選手が近ければプレッシャーをかける。中島選手はバランスをとり、堀内選手が展開を作る、という意図だったのではないかと思われる。また、今回初先発のGKマルク・ヴィト選手はFCバルセロナのユース出身ということで、ボール捌きが非常に上手い。また、左足から繰り出されるフィードはとても正確で、もし中盤が手詰まりになっても、ここからでも展開できるぞ、という圧力を出したかったと思われる。また、そのフィードを前線に当てたこぼれ球については國武選手が抜群の読みで回収したり、できないにしてもプレッシャーをかけることで、できるだけ相手陣内の奥でプレーする時間を作りたいという作戦だったように思う。さて、いよいよ試合開始だ。

前半、一進一退

 前半はお互い固い立ち上がりを見せる。アウェーでも勝つんだ!という意気込みの長野が最初は攻め込む。どちらかというとそれを受ける形になった奈良クラブだが、15分で最初の山を越えると次第に奈良クラブ優勢の展開になる。なにより、今日はちゃんとディフェンスがハマっている。3トップの両サイド、西田選手と岡田選手はサイドいっぱいに張るというよりも、3バックとウイングバックの間くらいにポジショニングし、両脇のCBとWBの両方を自由にさせないような役割をしていた。しかし、この試合で良かったのは百田選手と國武選手の前線からのプレスである。後ろはかなり楽にディフェンスできたのではないだろうか。具体的なデータを確認していないが、もちろんピンチになるシーンはあったにせよ、危険度合いは前節とは比べ物にならないぐらい低かった。奈良クラブ的には、前半はパスを回し左右に揺さぶりをかけることで、相手をふり回すことができればOKという感じ。サイドバックの位置も前節よりもかなり高く、クロスを上げる役割はウィングではなくてサイドバックの役割という感じだった。
 もちろんこれは「よしわるし」で、両ウィングが絞り気味にプレーするため、両サイドへの展開の際は、中で作ってサイドバックが上がってくるのを待つか、ウィングが開くのを待たなくてはならないため、一気にサイドを変えるという展開はなかなか難しかった。そこが攻撃の停滞を生み、相手に帰陣する時間とスペースを与えていたことは否めない。前半は0−0で折り返し、勝負の後半へ。

後半、最後の最後で堪えきれず

 後半、動いたのは奈良クラブ。西田選手を嫁阪選手に交代。これで右サイドでボールを収めることができるので、攻撃のとき時間のタメができるようになった。ここを起点にしながら奈良クラブが攻勢をかけてついに先制点。右サイドでボールを保持して下川選手から嫁阪選手へ大きな展開。嫁阪選手は胸とラップのあとしっかりキープしてルックアップ、真ん中でまつ百田選手へクロスを上げると、これがそのままゴールへ。ラッキーもあったが狙い通りの形で奈良クラブが先制に成功した。俄然盛り上がるゴール裏は、必殺技「あっこの舞」で選手を鼓舞。ボルテージは最高潮だ。
 ここから、しばらくは奈良クラブが優勢。國武選手の惜しいシーンなどもあり、このままの勢いで追加点といきたいところ。しかし、長野も黙ってはいない。選手交代で前線からかなり前がかりなプレスを敢行。押し込まれ苦しい奈良クラブ。それでも全員守備で跳ね返す奈良クラブ。「耐えてくれー」という祈るような声援を送る。どうにかロスタイムまでなんとかかんとか耐え凌いだ94分、とうとうサイドからのクロスを合わせられて同点弾を許す。あと1分、最後が辛抱できなかった。そのまま試合終了で1−1のドローという結果になった。

試合の総括

 この試合のMVPは國武選手ではないかと思う。オフ・ザ・ボールの動きがとても質が高く、攻守両面でのトリガーになっていた。まだまだ若い選手なのに、非常に成熟した選手であるという印象。今後がとても有望だ。めちゃくちゃ期待している(出待ちして写真を撮ってもらった)。
 前節、同じポジションには桑島選手が出場していたが、彼には彼の良さがある。その上で國武選手の良さはプレー全体でのセンスではないか。非常にフットボールにおけるインテリジェンスの高さを感じる。「ここ」というところでふっと入ってくることができるし、おそらく味方から見つけやすい動き方をするのではないか。クライフも著書で言及している通り、奈良クラブ的な自分たちでボールを動かすタイプのチームで彼のポジションは生命線だ。仮にボールに絡むことが少なかったとしても、このポジションの位置どりだけで攻守のバランスが大きく変化する。こいういうのは見えづらいが天性のものである。今後もプレーを追いかけたい。
 もう一人は百田選手である。彼も連動のなかで前線からプレスをかけ、ポストプレーをし、ゴールを狙い続けた。ものすごく疲労したのではないだろうか。酒井選手がいないなかで、彼の出来がチームの結果を左右すため、ゴールを奪うことに専念させたいところだが、仕事をしっかりとしていたのは素晴らしいと思う。ちなみに、タオルマフラーは百田選手のものをオーダーした。
 逆にいうと、彼ら二人が下がった後、前線からのディフェンスの強度というか、相手への嫌な感じが減退してしまったことが悔やまれる。変わったパトリック選手や神垣選手が悪かったわけではない。が、この二人の出来が今日は良すぎた。ので、相手に「楽になった」という印象を与えてしまったのではないか。ただし、國武選手も百田選手も、あのプレーのクオリティを90分続けるのは無理だ。試合開始から75分あたりで交代すること前提でのプレーであろう。個人的には、こういうときに「とにかく頑張る」がモットーの西田選手を投入したいので、嫁阪選手を先発させて、西田選手をスーパーサブ的に使う方が相手は嫌なのではないかと思う。むしろ、嫁阪選手はある程度プレー時間が必要なタイプの選手なので、先発でこそ持ち味がより生きるように考えている。単に贔屓なだけかもしれないが。。。
 監督のインタビューでは、ペナルティエリアの中でのプレーの精度に課題があるということだった。おそらく、そのためにはもう一個工夫が必要ではないか。決定的なシーンのひとつ、二つ前にアイデアが足りないように思う。ここで決定的なプレーが出れば、もっとゴール前で簡単にプレーできるはずだ。「シンプルなプレーこそ美しい。しかし、それこそ一番難しい」とヨハン・クライフはいう。これから、そういうプレーがどんどん出てきそうな試合だっただけに、絶対に勝ちたかった。非常に悔しい引き分けとなった。

ゴール裏で観戦して

 今節はゴール裏に陣取っての観戦となった。サポーターたちの想いの強さ、熱量、これはどこのチームにも引けを取らないものだと感じた。そして、子ども連れが多いこと。これは誇って良いと思う。奈良の休日の過ごし方として、奈良クラブのゴール裏で声を出すというのが定着してほしい。選手に対して厳しいことを言うこともできるのだが、一番悔しい思いをしているのは選手であり、それは試合後の表情でもよくわかる。絶対に僕よりも悔しいはずだし、勝ちたかったはずだ。そこに石を投げつける必要は感じない。むしろ、そんな中でも試合後にちゃんとファンサービスをする鈴木選手は、選手の鑑である。きっと、内心穏やかではないだろうが、彼の背負うものをサポーターの力で少しでも軽くできるなら、応援のしがいがあるというものだろう。僕も前向きな言葉を送り続けたい。
 J3は群雄割拠なので、楽な試合などない。相手に起こることは自分たちにも起こる。昇格を狙うなら、最初のつまづきだけで悲観的になってはいけない。まだ何も決まってはいないのだ。むしろ、このチームの持つ可能性が見えたことで、もっとみんなでワクワクしようではありませんか。

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