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【クロウ・アンド・キャット】

「ガンドー=サンァアアアア!」「きゃっ!」「アアア!」「ちょっと! 志保がまた発作起こしたわよ!」「なんだかしほ、しずかになったりうるさくなったり、死にかけのセミみたいだぞ」「環、本当のこと言わないの!ほらプロデューサー呼んできて!百合子、いつもの鎖!」「なんでぇええええ」「うるさい!」

「うんうん、分かるよ志保。物語で好きな人物が死んじゃったりするとすごいショックだよね。ガンドー=サンはすごくかっこよかったし、最後のコトダマ空間のシーンなんてもう……」「ァアアア」「百合子、早くそっち縛って!」その時であった。騒然とする事務所の天井付近に光が生じると、輝きは球状に収束して浮かび不穏に輝いた。

「何あれ」静香と百合子は光を見上げた。志保は両足を縛られ蠢いている。輝きはいや増し、遂に直視できぬ閃光を伴い……爆発した。「アアアガンドー=サンアアアアア」部屋を稲光の残滓と焦げ付く煙、そして志保の絶叫が満たしている。静香は志保に蹴りを入れて息を詰まらせると、目の前の異物に気が付いた。

 百合子が慌てて窓を開け、煙を外に追い出していく。騒ぎを聞きつけた他のメンバーも集まってくる。ある日始まった志保の謎の発作は凄まじく、奇声を上げて暴れ出したかと思うとレッスン室の隅で蹲るなど、強烈な躁鬱状態にみな悩んでいた。静香は百合子から原因を聞いていたが、どうしようもなかった。だが。「これは」煙が晴れると、そこには大柄な男が胡座をかいていた。

「オイオイオイ、一体なんだってんだ……」短い白髪の男は呟き、ボリボリと頭を掻いた。座っていても分かる巨躯を丸め、バチバチと放電するくたびれたコートは埃っぽく薄汚れている。大勢のアイドルが注視する中、志保は不気味な蠕動運動を止めて目を見開いた。「……ガンドー=サン」「ア?」


【クロウ・アンド・キャット】


「ガンドー=サン!こっちきてください!」「待ってくれよシホ=サン!」劇場のエントランスで駆け回る2人を見下ろす静香の顔は複雑だ。あの男が現れてからというもの、志保は仕事にも行かずに毎日彼を元の世界に戻す方法を調べると言って戯れている。「しょうがないよ、私だってどうなるか」「そうね」

「ガンドー=サン見て!私もピストルカラテの型を覚えたんですよ!」「オイオイ、俺は弟子は取らない主義だぜ」何やら空手の演舞のようなものを披露する志保の顔は、静香も知らないほど朗らかだ。あれが彼女本来の笑顔なのかも知れない。それを己がどうこうできるのか。「あれでいいのかも知れないわね」

 静香は呟き去って行く。百合子は心配そうに見送るが、志保に声をかけられ手を振り替えした。……メンバーの心配を余所に2人の日々は幸福に満ちていた。それでもどこかで、いつか終わりがくると知っていたのだ…………「ガンドー=サン!」志保は01分解を始めた彼に縋り付いた。「行かないで!」

 ガンドーは指先から崩れていく己の体を見つめた。「なあシホ=サン。俺は向こうに戻らなきゃいけないんだ。分かるだろ?」体を、本来であれば欠けている部分を重点してノイズが埋めていく。背後には光の輪が浮かび、彼を吸い込もうとするかのように渦を巻く。「でも……!」「まだ先のことは分からん」

「だから、待っててくれや」ガンドーはしがみつき01分解を始めた志保を押し出した。志保は静香に受け止められ、なおも手を伸ばした。「ガンドー=サン!」「ホーム・スウィート・ホーム、だろ?」「私、待ってますから!絶対帰ってきてくださいね!」志保の涙が01の飛沫に消えていく……そして010101100101000101101011010101010010110



01010101010110101010っていうのダメですか?え?ダメ?そうですか……


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