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自分の中のクリエイティブな才能を発掘したい精神科医(見習い) こころについての理解を深…

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自分の中のクリエイティブな才能を発掘したい精神科医(見習い) こころについての理解を深め文章に残すことを目的としています。 来世は猫に生まれたい🐈

最近の記事

こころの監獄殺人事件②

精神遅滞 岡本は幸いにも軽傷だったため、特に大きな処置をすることなくその日のうちに再び隔離室に戻ってきた。精神科単科病院では身体的な疾患のスペシャリストがいないため、こういう事態が起こると近隣の総合病院に頼りっきりになることは珍しくない。 岡本を部屋に戻し、自傷の恐れがあるため身体拘束の指示を出した後、千々石はカルテ記載のためナースステーションを訪れた。 筑紫精神病院では、患者の治療ステージに応じて病室を使い分けている。岡本のような急性期で、行動の予測がつかない患者は隔離

    • こころの監獄殺人事件①

      精神科医 すごいところに来てしまった。 千々石翔は初めて今の職場に赴任したときに自然とそんな感想が口をついて出たことを思い出していた。 千々石がX県某所にある精神科単科病院で専門研修を始めたのは2年半前のことだった。初日のオリエンテーションで隔離室の監視カメラの映像を確認していたところ、40 代の女性患者が全裸で反復横跳びを始めた。唐突な行動に驚き、指導医の方を仰ぎ見たところ、 「反復横跳びする人は多いけど、腕立てする人は見たことない」 などと医学的には意味のないことを真面

      • 1と0の狭間

        松井優征先生の代表作《魔人探偵脳噛ネウロ》をご存知だろうか? まだ読んでいない漫画好きの読者には是非とも読んでほしい作品なのだが、その中でも筆者の印象に残っている話が"1と0の狭間''だ。 作品の詳細は読んで確認していただきたいが、この話ではある人物が1(生)と0(死)の隔たりの大きさに絶望している描写にこころを動かされる。 日々病院で勤務していると、人間が1から0になる瞬間に立ち会うことは珍しいことではない。むしろ書類上は医師が死亡を確認した時刻が、そのままその人の死亡時

        • どうして勉強しないといけないの?

          先日常磐線の特急列車に揺られ微睡んでいると、後ろの席から『どうして勉強しないといけないの?』と、あどけないながらも多分に悲しみのこもった声が聞こえてきた。 そっと座席の隙間から後ろを覗き込むと、某N塾の特徴的なバッグを抱えた小学生が母親と思しき女性と並んで座っていた。女性は『お受験のためには頑張らないといけないのよ』と答えていたが、少年が納得のいく答えではなかったに違いない。 少年時代の切実な疑問に対して、大人からピントのずれた答えが返ってきたときの言葉にできない歯痒い気持ち

        こころの監獄殺人事件②

          この世界の主人公

          精神科を志していることを話すと、必ずと言って良いほど悩み相談を受ける。精神科医はこころの病気を治療する職業であってカウンセラーではない。しかし、病院職員すらお悩み相談を持ちかけてくる実情を鑑みると、ある程度は対応しないといけないということなのだろう。 とはいえカウンセリングの技能は持っていない(医学部では学ばない)ため、''それっぽい"説明をその都度考えないといけないわけだが、これがなかなか難しい。そこで自分が編み出した汎用性の高い説明が『あなたがこの世界の主人公である』とい

          この世界の主人公