グルメ漫画覚書:ザ・シェフ

この作品はグルメ漫画に分類されているが、ブラック・ジャックやゴルゴ13に共通する「流しの天才(プロ)が各所でトラブルを解決する」というところが作品性の根幹をなしており、主人公がシェフであるという点は舞台設定に過ぎない側面がある。料理のプロセスや内実に関する記述は薄く、その意味で「料理漫画」とするかどうかは悩ましい。場合によっては料理せずに説教を垂れて終わりのことさえある。一方で「いかに客に合う料理を出すか」というテーマを中心に押し出すことで料理プロセスの表現の薄さを補っており、その点で(辛うじて)グルメ漫画としての内実を保っていると言える。

「流しの天才(プロ)が客に合う料理を出すことで客の問題を解決に導く」展開が主軸となっているグルメ漫画は、この後にもいくつか表れている。西村ミツル/かわすみひろし「大使閣下の料理人」は比較的その傾向が強く、城アラキ/甲斐谷忍「ソムリエ」もソムリエの役割上そのような展開がもっともフィットしていると言っていいだろう。これらの後代の同スタイルの漫画は、それぞれ専門家が原作・監修を務めておりグルメ漫画としての内実も充実している。専門家の蘊蓄は前に出すぎると漫画としての作品性が損なわれてしまう嫌いはあるため、ザ・シェフ同様のストーリー展開で蘊蓄を適度な範囲に保つのは漫画としての作品性を保つのに効果的ではないか、というのが私の印象である。

また、連載していた時代および連載雑誌(漫画ゴラク)の影響からか、不倫話を中心に若い女が中年男性に恋するという話が非常に多く、さすがに現代人から見るとうんざりする。

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