推しが書く文章が好きだ

私が推し、自担などと呼ぶ人達には、いくつか共通点がある。今回は中でも文章を書くことが上手い、という点に焦点を当てた話をしたい。

具体的に、私がジャニーズや3次元のアイドルに足を踏み入れる最初のきっかけとなった推し、松村北斗は雑誌東海ウォーカーにおいて『アトリエの前で』というタイトルの自筆エッセイを連載している。私自身、これまで彼が書いてきた文章の全てを読んでいる訳ではないのだが、独特な比喩や語り口を多用しながら語られる彼の思想や幼少期のエピソードは松村北斗という人間を考える上で欠かせないものだろう。
また、ジャニーズwebで連載されている彼のブログ『北斗學園』からも彼の文章の癖を伺い知ることができる。『アトリエの前で』で見られる詩的な文章のあとにブログを読むと、一歩間違えればおじさん構文化待ったナシな怒涛の絵文字ラッシュに驚くと思うが、落ち着いて読むと独特なまどろっこしい言い回しなどは意外と共通していることに気付くだろう。
彼はそこでセルフライナーノーツや仕事への姿勢、自身の思考など様々な内容を発信しているが、中でも3.11に更新された文章は彼の本質をこれでもかと表しているのではないかと思う。この記事を更新した時点ではまだ残っているはずなので、ジャニーズwebに登録している方はぜひ読んでみてほしい。それはもう、めちゃくちゃに回りくどくてめちゃくちゃに誠実な松村北斗を見ることができる。一見何も関係なさそうな話なのに、読んでいくとこの内容を投稿するのはこの日でなくてはいけなかったんだということがわかる。

そして、今私が"自担"と呼ぶ存在である猪狩蒼弥。ジャニーズweb上でHiHi Jetsが連載する『伝記』で読むことができる彼のブログも癖の強いものが多い。
以前私がはてなブログに考察を載せた短編小説『堕天』が最たる例だろう。何度だって言うけどあれが無料で読めるのはバグでしかないし2週間かそこらで合法的に読める場が消えてしまったことはもっとバグ。猪狩蒼弥の短編小説集が書籍化するまでは死ねない(もし堕天を読んだことがない方がいたらこんな記事読んでないでお近くのHi担にそっと声をかけてみて下さい、きっと高確率で何らかの方法で保存しているはず……)。最近だと、瓶コーラを飲みながら無駄について考える文章が好きだった。敢えて無駄の多い文章で書かれていた辺り、しっかりと練って書かれたものだったのだろう。
そしてもう1つ、忘れちゃいけないのが去年の自粛期間に発表されたハッピーレター。こちらはYouTubeで全文が読めるのでぜひ(なんと本人の朗読付き!)。ステイホーム期間にジャニーズjrからファンへ手紙が届く、という趣旨のこの企画で猪狩蒼弥がどんな手紙を書いたかというと、それはもう、ひたっすらにふざけ倒している。
(本人曰く「リスペクトの意を込めた」)私たちオタクが書くファンレターのオマージュに始まり、「この後も、ギャルの人格が憑依してしまったら申し訳ありません。(中略)えっ、ちょっと待って、見てぇ、ネイルまぢヤバくなぁい?」と突然ギャル語を喋り、家で何をしているかの話題では「電子ゲーム、ボードゲーム、ワードゲーム、カードゲーム、スマホゲームの5Gです✨」などとにかくやりたい放題。とはいえ最後は諺の由来ともなっている中国故事『塞翁が馬』の話を経て真面目なトーンで文章が締め括られる辺り、やはり猪狩くんらしい。
彼はこの手紙について雑誌のインタビューなどで「気が滅入る状況の中、自分の手紙で笑顔になってくれたら(ニュアンス)」と語っている。結局彼の行動は全て彼が思う"エンターテイナー像"に沿って行われているものだと再認識させられた。猪狩蒼弥は最高のエンターテイナー……。

さて、ここまで私が好きなアイドルを2人挙げ、彼らの文章について話してきた。2人の書く文章はそれぞれ魅力的だが、文章の癖は全然違う。
松村北斗の書く文章が徹頭徹尾まどろっこしい言い回しと比喩を多用し曖昧なまま進んでいくのに対し、猪狩蒼弥が書く文章は使用される語彙こそやや難解であれ、文体は非常にストレートで読みやすい。その辺り、本人たちの性格が表れていて、私のようなキモ・オタクにとっては非常に微笑ましかったりもする。松村はやっぱりとことんめんどくさいし、猪狩くんはひねくれてるようでいて根っこの部分は素直なのだ。みんな違ってみんな愛しい、それが推し。

ところで、この2人の文章が魅力的である理由の1つに日本語への興味が挙げられると思う。特に猪狩くんは自身が積極的にオリジナル曲のラップ部分やソロ曲の作詞を行っていることもあってか、インタビューやブログにおいて日本語の美しさなどに言及する姿も見られる。そして、私がこの事を何よりも実感したのが【"かわいそう"事件】である。私は正直めちゃくちゃ衝撃を受け、めちゃくちゃ興奮したのだが、私以外の松村と猪狩の兼オタも同じ感情を抱いたことだろうと勝手に思っている。
事の始まりはいつかのSixTONESANN。松村北斗の出演回で彼が田中樹やリスナー相手に熱弁したとある話があった。それは「〜そう(○○っぽく思えるの意)」という日本語について。「優しいように思える」と言いたい時には「優しそう」と言うのに「可愛いように思える」と言いたい時に「かわいそう」と言ってしまっては意味が変わってしまう。それが不便であり、「かわいそう(可愛いように思える)」の替わりとなる単語が欲しい、という話であった。
言われてみれば確かにその通りである。しかし、何気なく日常を過ごしているなかでその事に気付き、更にそれについてラジオで熱弁してしまう程の"引っかかり"を感じる人間が果たして日本に何%いるだろうか。しかし、ジャニーズ事務所にはその"引っかかり"を覚える人間がいたのである。それも、"2人"。

ここまで書けばお分かりだろう。このラジオの数ヶ月後、2021年3月25日に更新されたISLAND TV内で猪狩蒼弥はANNで松村が投げかけたものと全く同じ疑問を視聴者に投げかけたのである。驚きの余り帰宅中の電車内でスマホぶん投げそうになった。
ともすれば「めんどくさい」と一蹴されてしまいそうなこの"引っかかり"に脳の容量を割き、熟々と考えてしまうような人間って、めちゃくちゃ愛しくないですか???好きなアイドルが2人ともそういう"愛しさ"を持った人間だったことに気付けて幸せだし、逆に自分の他者に対する"愛しさ"のツボがそういう点にあるからこそ、この2人を好きになったのかもしれないとも思った。

やっぱり私は、推しが書く文章と推しが持つ感性が好きだ。

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