なんだかいかにも大学、って感じ / 芸術未満 0

テニスサークルなんやけど、テニスはな、あんませえへんねん。
飲み会とかやるほうが多いねん。
と下田に説明した女子学生は眠たげであった。

「時間割りとか作ったん?
どんなん? 見てあげるで」

下田は気が進まなかったが
手書きのそれを年長の男子学生に見せた。

テニスサークルの彼は下田のコマ組みをいちべつすると
哀れな(手のほどこしようのない)子供を見るような目で
下田を凝視する。

(こいつは正気なのか)という自問を含んだ視線である。
「それほど無茶苦茶なコマの取り方だったのかな」と
下田は不安になった。

これ、だれかセンパイとかにみてもらったん?
と(下田を不安そうに見る)男子学生は言った。

いや、べつに、ひとりできめました。まずいですかね…。

「これは、やばいで。
ラクに単位くれる授業とか選ばなあかんで。
授業出えへんでもええやつばっかで組まなあかんで」

と言って彼は下田の時間割を訂正するように指摘した。
そのようにして「楽勝」な教授の授業を選び
本人の興味など関係なく、センパイたちが
新入生の時間割を特別に作ってくれたりもするそうだ。

「下田くんのも作ったげるよ」と女子学生が言った。
「美芸のセンパイもおるし」
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憐れむような目で凝視されると
どうにもなにかわるいことをしているようで
はにかむように俯向くしかない。

引きつったような笑いでその場を後にし
「どうもありがとうございました」
さて、この時間割りの一体どこが問題なのだろうか。
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いつも心のどこかで
誰も自分を知らない場所に今すぐ消えたい
anywhere out of this world と
(蒸発癖)のような心根のある下田は
進学するたび、一人になりたかった。

自分から好んでそのような環境を選ぶのだが
すぐに人恋しくなり、
サークル見学を毎日つづけてしまう。
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勧誘されるままに話を聞いていた
テニスやらイベントやらのサークルはどうにも
疲れそうな気がした
(「内部は男女ドロドロらしいで」と聞いた)
ので、下田は学生会館内のサークル室を回ってみた。

大学のサークルにはランクがあり
認可サークルで一定の条件を超えると
学生会館内に部屋を割り当てられるらしい。

いべんとさーくるやテニスサークルは
有象無象も含め数多くあるらしいが(実体不明)
ほとんどはテニスコート近くの「ラウンジ」と呼ばれる場所で
たむろすることが多いそうだ。

ミニスカートの眩しい女子学生が
「自分はやりたいことが分からない」と
落胆していたのも、その場所だった。
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現代音楽研究会、という詰まらなそうなサークル名が
大学支給の「サークル一覧表」に掲載されていた。

下田はやはり一人でそこを訪ねていった。
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サークル室(ワンルームマンション程度の大きさ)は
暗く、窓はスピーカーで覆われていた。

数十個はある大小のスピーカーから音楽(ロック)が流れている。

室内には「考える人」のような格好で
黙って音楽に聴き入っている男が一人いる。

「あの、すいません」と下田は声を掛けた。
「さーくる見学に来ました」

「お、なんや。そうか」
と顔を上げた彼は眠そうである。

「どんな活動をするんですか?」下田は訊ねた。

「勝手に音楽聴くだけや」
と無造作に言う黒ずくめの男に下田はなぜか好感を持った。

流れている音楽も下田の知っている曲だったからかもしれない。
部屋は掃除されておらず、いかにも女っ気がない。

灰皿もタバコのすいがらでいっぱいだ。
なんだかいかにも大学、って感じで下田はうれしく、身震いした。





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