自分の自閉症を同僚に説明する。比喩で。

私はASD/ADHD(自閉症スペクトラム障害・注意欠陥多動性障害)です。毎日風呂に入れるぐらいの集中力を保つためだけに、20年以上に渡って投薬治療を受けています。2級の精神障害者手帳を取得し、今は一般の企業で働いています。オープン就労ですが、待遇は一般の方と同じです。

ありがたいことに、上司は理解のある方です。就労支援施設の職員の方と定期的に面談をしてくれますし、カウンセラーを手配してくれたり、どんな配慮が必要かプロジェクトの関係者に説明してくれたりします。長いこと職業訓練や支援施設に通ったり、就職浪人してでも入れるところを探した甲斐があったというものです。

しかし同僚はそうはいきません。話せば仲良くはなれます。自分が興味を広く持っていれば、大抵の人とは何かしら共通の話題が見つかるものです。すると次のステップはなんでしょう? 「一緒に土日にボルダリングでもしない?」「金曜日宿取ったから夜通し飲もうぜ!」そう、悪意なく……

そりゃあそうでしょう。いかに優秀な人でも、人格者であっても、発達障害について詳しく、その立場に立って考えられるわけじゃあありません。『普通に』生きていくだけなら必要のない知識ですものね。

誤解してほしくないのは、私は人と話すこと自体は好きだということです。色々な視点から色んな人の考え方を知れるのは楽しいものです。相手から色々話を引き出しているうちに30分経っていることはザラです。ときどき自分のほうが喋りすぎることもありますが。いや、しょっちゅうかも……

しかし自閉症が人とコミュニケーションを取るときは、普通の人とは違う脳の回路を使っています。そうなると日中は楽しくおしゃべりできたとしても、定時後や土日は休む必要が出てきます。好き嫌いではなく、純粋に体力の問題なのです。

これをどう理解してもらえばいいのでしょう?

そこで活躍するのがアナロジー(比喩・たとえ話)です。アナロジーを多用する話し方は必ずしも論理的ではありませんが、それだけに強力です。人は論理的に考えようとするとき、ついつい常識に頼ってしまいます。常識の枠から外れたことを理解してもらうためには、相手の常識の回路を避ける必要があります。正確さがボケるのは承知の上で、あえてアナロジーを使いましょう。そうすれば事の本質について、相手の無意識に入り込むように理解を促してくれます。

たとえば、あなたが自閉症で、誘いを断らなければならないとき、こういうアナロジーが使えるでしょう:

「私にとって、人と話すということは海に潜るようなものです。潜っている最中は大いに楽しめるのですが、そこには酸素がないのです。ですから、ときどき陸に上がって休む必要があるのです」

あなたに悪意があるわけじゃあありませんし、むしろ仲良くしたいと思っています。しかし私にはエラがないのです。だから遅くまで飲みに歩くことはできませんし、土日は一人で本を読んだりして過ごす必要があります。エラは生えない、生やせない。そういうものだと理解してもらうしかありません──

……という話を今日主治医の方にしたところ、「そのたとえ、保護者向けの勉強会などで紹介してもいいでしょうか?」と言われました。もちろんいいですとも。なんなら私の名前を出しても構いませんよ。「いえ、ASDで、今は会社員として働いている人が言ったということは言いますが、それ以外は伏せます」冗談です。

とはいえ、専門家の方の琴線に触れた例えを、専門家や当事者の狭いコミュニティの間だけで埋もれさせておくのはもったいない。そこでnoteを始めることにしました。

というわけで、このアナロジーは今日からフリー素材です。みなさんも自分がエラを持っていないことを、エラのあるご友人に理解してもらうつもりで説明してみてください。

グッドラック。

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