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東京都立大学エリカ混声合唱団 第49回定期演奏会第2ステージ「アイロニック・ブルー」―2


菊間さんという存在

本ステージでは、ご縁があって、東京藝術大学音楽学部楽理科に所属されている菊間倫也さんをピアニストにお招きした。私の兼団先である湘南ユースクワイアで共演した際に私が勝手に菊間さんを認知し、これは来ていただくしかない、と思ったわけであるが、オファーさせていただいてからもすんなりと受け入れてくださって、たいへんありがたかった。そもそもこの出会いというのも私が先輩の誘いで湘南ユースクワイアにお邪魔していなければ、あるいは菊間さんが湘南ユースクワイアの団員と高校の同級生でなければ、成り立たなかったものであり、言い出せばキリがないとは知っていながらも、不思議な偶然に恵まれたと思わざるをえない。

菊間さんには定期演奏会をはじめ多くの本番・練習でご一緒させていただいた。夏にはコロナの影響でなかなかお呼びすることができず、大学祭では直前に学外者の入構制限があることが判明し共演を一方的にお断りしてしまうなど、たいへんなご迷惑をおかけしたことを改めて謝罪したい。そして、不甲斐ない指揮者と年の瀬までご一緒していただいて本当にありがとうございました。

実はnoteに書き起こしておこうと思ったのも菊間さんがエリカについて書いてくださったのがきっかけだ。菊間さんの文章を読んで、今の自分の思いを誰かと共有するのも良いのではないかと思った。いわば、菊間さんのパクリであり、精神的な奴隷である。

音楽づくりに対しては、菊間さんには指揮や歌い手に対して思うことはたくさんあっただろうが、いつもこちらの意向を尊重し、的確なアドバイスをくださった。そして、演奏に入れば、こちらのしたいことをまた的確に理解し、それを音で表し、ときに思いっきり引っ張ってくれた。私としては良い意味で本当にやりやすかったし、逆にたぶん菊間さんの手のひらでコロコロ転がされていた部分もあったのだろうと思う。もちろん菊間さんの独裁的な判断ではなく、あくまで私と伴奏と歌い手とのバランスを保つという意味においてだが。私がないがしろにしている部分を自覚させてくれるのもまた菊間さんの伴奏であった。

終演後、機会があればまたご一緒したいと申し上げたところ、快諾してくださった。私と菊間さんを「良いコンビ」と称してくださる人もいて、肩を並べるだけでも気後れするのに……と思うと同時に、このまま終わってしまうのは寂しいな、と率直に思った。菊間さんのnoteによると、来年度の学生指揮者ステージの伴奏者として引き続きエリカに携わってくださるということだ。演奏はもちろん、今年あまり私が引き出すことができなかった菊間さんの「楽理科的な」面を見せていただけることに期待している。



言うべきことを、言うべき方法で、言うべきタイミングで

少しだけ、練習において考えていたことを書き留めたい。私にとってのゴールは定期演奏会であり、練習はそこから逆算して組み立てていった。もちろんその逆算どおりに練習が進むわけもなく、とくに夏休みに練習を行えず、合宿も開催できなかったのは大きな誤算であったが、そういったことも逆手にとりつつ、紆余曲折を経ながらも、ゴールをめざした。

私は「べき論」が大の苦手であり、特にそれを他者から押しつけられることには強烈な嫌悪感がある。私は自分に正直でありたいと願っているが、その願いを邪魔するものが「べき論」なのだ。

それでも私は、ゴールから逆算したとき、「言いたいことを、言いたい方法で、言いたいタイミングで」言うわけにはいかなかった。全ての声がけは定期演奏会に照準を合わせられており、そこには未だ名付けられていない理論があったと思う。

私の話はときに冗長で掴みどころがなく、歌い手にはたいへん退屈な時間を過ごさせてしまったこともあったと思う。しかし、定期演奏会を終えて、そのすべてが線でつながっていると気づいてくれた歌い手もいるのではないだろうか。技術的なことも、哲学的なことも、私にとって内容、方法、タイミングにおいて無意味だった言葉は一つもない。ただし、それが閉鎖的なものになるのは避けたかった。私は神様ではない。私は指揮者を神のような目で見ている合唱団にははっきり言って吐き気を催す。歌い手からの内発的な歌への思いは、表現に豊かさを与える。舗装された道路と荒れ地の間のぼやけた輪郭をさまよいながら、ゴールを目指していった。


私の策略は奏功したと言って良い。結果的に定期演奏会での演奏がこの一年で最高のものになった。言うべきことを、言うべき方法で、言うべきタイミングで言うことを追求した結果だと思う。そして何より、その言葉に耳を傾け、咀嚼して、表現に生かしてくれた歌い手のリテラシーの高さにもたいへん助けられた。心から感謝している。



(続く)

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