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SF・ファンタジー

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テクノロジーが発達した世界で。人は、機械は、何を願い何に祈るのだろう。 不定期更新。
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SF掌編小説【幸せになんて】

悩むことなんて馬鹿らしいと感じていた。 進み続ければ何か見えると。 この数十年がむしゃらに走ってきた。 しかし気が付けば、私は一人になっていた。 周りから稼働音も人の気配もなく。 鳥がさえずる声も、木々が囁く音も。 何も聞こえない、無音の世界に。 私はいた。 違う世界へ転送させられたのか? プロジェクトにはそのような案もあったが、道が安定出来ず頓挫したはず……。 秘密裏に動いていたものたちがいたのだろうか。 思考が働く限り考えたが、答えは出ない。 でも考えなければ、

小説【次は、普通に生きてみたい】ショートショート

どろどろと汚いものが溢れ出た。 残ったものが綺麗なのかは分からないが、何かが欠けたような気分だ。 夏の青空が、欠けた部分を補ってくれるはずもなく、突然の雷雨に心が冷えていく一方で。 汚いものも、必要だったのではないかと。 夕立が過ぎ去った赤い空を見上げながら、私は額に手の甲をあてた。 「淋しい……」 誰に言うでもなく、ぽそりと呟いた声は、未だに遠くで響いている雷鳴にさえ負けるほど小さくて。 汚いものを一度出し切った私には、何かを始める意欲さえ残らなかった。 きっと人のや

小説【仲間と世界が消える日に】ファンタジー

第1話『支え合う人々』 マップが世界を分断した日。 それぞれが、自分の道を歩き始めた。 魔物の脅威に怯え、街から出なくなった者もいた。 魔物を殺した感触に嫌悪し、武器屋や防具屋に転職した者もいた。 そもそも戦うのが苦手だと、畑や牧場を営む者もいた。 マップが世界に出来てから、五百年が経った今でも。 人々は、マップに翻弄され続けている。 マップとは、人と魔物を分断した未知の壁だ。 唯一残っている文献には『神が力を行使した名残り』と記載されているが、真実は誰にも分からない

小説【音からの解放】

音がする。音が聞こえる。 音が耳の奥でのたうち回っている。 ここから出してというような。 解放してくれというような。 私はぎゅっと目を瞑り、ひたすらに時が経つのを待つ。 ……どれくらい経っただろう。 音がした。音が聞こえていた。 音が耳の奥でのたうち回っていた。 何かを叩く音は消え去り。 怒号のような声は消え去り。 私はそっと目を開き、ひたすらに時が経つのを待つ。 ……どれくらい経っただろう。 ようやく景色が見える頃。 耳を劈く、不快な音がした。 「被検体α

SF小説【祈るものたち】

窓の外に広がる青い空に、目が痛む。 今日も眠れなかった。 明日は眠れるのだろうか。 眠る直前、誰かが話しかけてくるんだ。 何を言っているのか分からないけど。 酷く不快で、耳障りだってことだけは分かる。 時には横から、時には上から。 足元の時もあった。 毎日、場所を変えては話しかけてくるんだ。 「今日は話しかけないでくれ」 眠る前に祈りを捧げる。 一時間でも眠れますようにと。 あぁ。でも、駄目らしい。 今日も聞こえてくる。話しかけてくる。 何が言いたいのか、何を伝えた

小説【未来のために】#宇宙SF

おーそらに うっかっぶー あーまたの ほっしっよー わーれらが せっいっぎっだっ てーをあっげっろー すーすむーは こーのーみーち ぎーんがーの たーめーにー てーきを ほっろっぼっせ てーをあっげっろー 子供たちが歌いながら、床に映し出されている芝生の上を駆け回る。 (そのままでかくなって、立派な属船兵になるんだぞ) そう考えてしまう俺も、もうこの船の属船兵なんだろう。 故郷の星を、祖船を滅ぼされたのに。 捕虜とは名ばかりの拷問を受け、銀河の為にと言いながら服従

SF短編小説【青い月に何を思う】

「進路表って出した?」 「まだー」 「僕も」 趣味も専攻している学部も違うけれど、仲が良いと自他共に認めている僕たち三人組は、大学の進路について悩んでいた。 学校の屋上には春を感じさせる風が流れているが、僕たちの口からは溜め息がついて出る。 「でもあの青い月を間近で見てみたいなぁ。どんな生物とかがいるんだろ」 と生物や植物が好きな航太は、空を見上げながら言った。 「意思疎通って出来るのかな?言語は違うだろうけど、絵とかで伝わるのかな?」 コミュニケーションの仕方や言