見出し画像

キラキラカレシ マキオ10|退屈の檻と日常の檻

『チャーリーとチョコレート工場』に登場するウィリーウォンカとその従業員である小男たち、閉ざされた世界で彼らも夢をみる?


なぜ逃げない

友達に会おうとすれば決まってマキオのジャマが入った。

外出した途端、なぜだかマキオから電話が入るのだ。
瞬間、わたしの気持ちはしぼみ全てが嫌になって帰宅したくなる。

ストレスから自分にブレーキをかけるようになっていった。
外出を避ければジャマされない。

なぜすぐに逃げなかったかうまく説明できないけれど、ひとつだけ言えることがあるとすれば。
わたしの心はそもそも何にも縛られない自由さを備えていた。
だけど、これを克服することは自分の使命であるような気がしていて、「なんとかしなければいけない」そんな義務感からそこにとどまっていた。

マキオによる地雷があちこちに仕掛けられた危険地帯で閉じ込められながらも、それを外側から見つめるもうひとりの自分がいた。

マキオは小さな男だ。
混乱を極めた小男はわたしに何をもとめていたのか?それとも何か映し出して見たかっただけ?


退屈の檻

マキオとゲームセンターに行った。

マキオはゲーセン大好き。
わたしはゲーセン大嫌い。

出るか出ないかわからないものに期待をかけて偶然を待つことになんの意味がある?
わたしはキレイなもの、おもしろいもの、心がはずむようなモノやコトをみつけだすのが大好きで、そして死にたくなるような退屈さが大嫌いだった。

マキオとゲームセンターに行って気がついたことがひとつある。
そこにいる間はマキオとの距離がうまく保てるのだ。

なぜ?

どういうわけかそこではマキオは落ち着いて見えた。

なぜ?

偶然を待つだけなんて退屈だけれど、言い換えれば、予測できる範囲内のことしか起きないとも言える。
その小規模感がマキオに安心感をもたらすのだと気づいた。

彼は開店と同時にわたしをゲーセンへ連れて行き、
「オレのバイトが終わるまでここで待っていてほしい」
と言い残して去った。
リクエストどおり、その店で丸一日を過ごしてみた日もある。

あんなに嫌いだったのに、ゲーセンデートが定番になっていった。


日常の檻

ときどきサプライズがあった。

あるとき「一日ヒマ?お昼食べにいこーよ」と誘われた。
ちょっとのつもりで出かけた。

「天気いい。ちょっと遠出してご飯食べよう。」

そだね。

「このまま最南端行ってみる?」

そだね。

「フェリーあるね。乗ってみる?」

そだね。

「かなり来たね。温泉行ってみよか。」

そだね。

「そーいえば、昼食べに出ただけなのに海渡ったね。」

そだね。

「お土産買っとく?」

そだね。

「職場の人にお土産渡したら、みんなびっくりするんじゃない?」

・・・。


「行動力あるってびっくりされるかな。」

・・・・??


そんな調子でときどきサプライズっぽい小旅行があった。
普段のわたしたち、約束も計画もない。

だから。

日常なき日々の延長線上に投下された非日常。
現実とは乖離したサプライズイベント。

どこまで自覚しているのかは知らないが、「オレ自分のこと話すの苦手なんだよ」とマキオはよく漏らした。
彼は自分を表現することに困難を抱えている。

自分を表現する。
それってわたしにとっては朝メシ前の日常だ。
でも彼にとっては困難なのだ。

彼は日常というハードモードから解放されたくてほんの時々、こういうサプライズを投下するのだった。


*モラハラ・ポイント

  1. やっぱりサプライズしか思いつかない


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?