肥料リンの行方
2022年11月7日の日本農業新聞の記事です。
作物を育てるために用いられたりするリンを下水道から回収して「再生リン」として肥料用に販売しているそう。
この記事を読んで、肥料の「リン」ってなんだ?と、よく分からないことに気づいたので、リンについて調べてみた。
リンは実成をよくしてくれる肥料、というざっくりとした効果の面しか知らなかったが、資源の視点から見ると、危うい事態が近づいているのかもしれないと思った。
まずはじめに、肥料三要素である窒素・リン・カリの原料はどれもほぼすべてを輸入に頼っているのが現状。
肥料三要素とは
作物を栽培するうえで特に欠かすことのできない栄養素である。ひとつ断りを入れておくと、ここの引用に不足しやすいとかかれているが、栽培作物や土壌環境によって、過多になる場合もある。堆肥を基準に基づいて入れていたら窒素過多になったというアスパラ農家さんがおられた。
窒素とカリウムについても触れたいところだが、リンに絞って話を進めよう。
あらためてリンの肥料効果を引用で説明しておく。
もう少し細かな効果を書くと、DNAや細胞膜の重要な構成成分でもあり、また、植物体内でのエネルギーのやりとりにも役立つのだそうです(リン酸(P)|住友化学園芸 )。
全く知りませんでした。肥料三要素の1つと言われても確かに納得します。
で、問題の原料。
肥料リンの原料はリン鉱石である。。リン鉱石をそのまま輸入しているわけではなく、リン鉱石と硫黄を反応させて得られたリン酸をさらにアンモニウムとを反応させて得られるリン酸アンモニウムとして輸入しているようだ。
リン酸アンモニウムの全輸入量51万2千トンのうち、約90%にあたる46万トンを中国から輸入に頼っている。残りをアメリカ合衆国が占め、わずかに他の国からも輸入しているが、偏在ぶりが顕著である。
ちなみに、窒素の原料である尿素も全輸入量のうち37%を中国に頼っている。
こうなるのは致し方無いと言えばそうなのかもしれない。そもそもリンの原料となるリン鉱石の産出量トップ3が中国、モロッコ、アメリカで全体の6割を占めているのだから。資源の眠る場所が偏在していれば、そりゃ輸入を頼る国も偏るわけだ。
もちろん、一点にウェイトがかかっているということは、そこが折れたときには擦り傷程度では済まないだろうということは火を見るよりも明らかであろう。リンは肥料三要素に括られるくらい作物を育てる上でかかせない栄養素である。そのリンが輸入されなくなれば、野菜を育てられなくなるかもしれない。食がかかっている。日本だけはでなく、多くの国が産出国に首根っこを掴まれているわけだ。
突然、原料の輸入がストップすることはないにしろ、有事のときには何があるかは分からない。今回のウクライナ・ロシア問題を契機として肥料などの資材の高騰だってあるのだから。
しかし、もう1つ、輸入国が偏っていることで心配なことがある。
それはリン鉱石の経済埋蔵量である。
現在のコスト、技術で採掘が可能な埋蔵量も産出国トップ3が独占しているのかと思いきやそうではない。
リン鉱石の全世界の埋蔵量を100とした場合、70%をしめるのがモロッコである。全世界の3分の2を占める圧倒ぶり。
中国とアメリカはというと、中国はわずか5%。アメリカはなんと1%と考えられている。
他の上位国は4%のエジプト。3%のアルジェリア。2%でブラジル、サウジアラビア、南アフリカ、オーストラリアと並ぶ。
これがどういうことなのかというと、日本は現在リン鉱石の輸入を中国とアメリカのほぼ2か国に依存しているわけだが、この2か国とも経済埋蔵量が潤っているわけではない。
リン鉱石の世界埋蔵量は71,000百万トンと現段階で考えられている。これを2021年の産出量である220百万トンで割ると約322年。残り322年分が見込まれている。これをまだたくさんあるとみるか、これぽっちしかないと見るかは人それぞれだろうと思う。
しかし、日本への輸入90%を占める中国の採掘可能年数を知ってどう思うだろうか。
322年分から中国の埋蔵量の割合5%をかけると、約16年。
2021年と同じ産出量を続けた場合、残り16年分の埋蔵量があるということである。ちなみにアメリカは約3年分。
このまま輸入に頼りきりではさすがに心細い。
逆にモロッコは当面安泰。リンの輸出でがっちり(たぶん)。
冒頭の日本農業新聞の記事に戻るが、”資源高の救世主”として下水道からリンを再生産しているように、ゆくゆく””資源不足の救世主”なるものがあらわれるかもしれない。もしくはリン肥料を撒かない栽培方法が広がるかもしれない。
どこか他人事みたいになってしまった。
僕自身が調べてみて初めて知ったことなので、じゃ、こうすればいい!なんていうひらめきや発想は全くない。
思ったことは、実際にリンの枯渇が間近に迫ったときに新しい方法で解決していくのかな、というやはり他人事のようなこと。
コロナ渦でリモートや地方移住が前進したように(したよね?)置かれた環境に人は対応していくんだろうなと思う。
もちろん、食の問題に繋がるわけだから誰もが自分事として受け止めなければならないときがくるはず。食のあり方や農業のあり方を考える問いとして、きちんと頭に留めておこう。
参考資料
https://www.maff.go.jp/j/seisan/sien/sizai/s_hiryo/attach/pdf/index-7.pdf
https://www.nirs.qst.go.jp/db/anzendb/NORMDB/PDF/14.pdf
https://www.pref.nagano.lg.jp/nogyokankei/letter/documents/ntk445_veg1.pdf
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