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第33話「蛇夜」

不気味な物音に足を止める二人。目的の神社は目と鼻の先。歩むのを止めるわけにはいかない。僕が先導して一歩踏み出した。雫もその後ろで一緒になって歩き出す。不気味な物音は聞こえなくなったけど、緊張感は拭えない。


ザッザッザッと二人の足音だけが、真っ暗な集落に響く。


「雫、ついて来てるか?」と振り向いたときだった。


僕の足の間から地面を這うような動きで黒いモノが動いた!?慌てて懐中電灯で照らすと、赤っぽい色の一匹の蛇が雫に向かって地面を這っている。


「雫、蛇だ!蛇がいるぞ!」と叫んだ瞬間、僕は雫の方へ向かって懐中電灯を移動させた。


すると、真っ暗な集落に何十匹という蛇が蠢いてる。僕たちを取り囲むように周りの家から蛇が現れた。その数、何十匹ではなかった。何万匹という数である。雫が悲鳴をあげて、その場で足をバタバタさせる。僕の方に向かわずに、蛇の大群が雫の足元に集まり出したからだ。


「いやーお兄ちゃん、助けて!」


「待ってろ!」と僕は雫に向かって叫ぶと、懐中電灯を握りしめたまま雫の元へ駆け寄った。


次の瞬間、何万匹という蛇が膨れ上がって、僕の目の前で壁みたいに立ち塞がった。まるで、僕が近づくのを邪魔しようとしてるみたいだ。雫だけを取り囲んだ蛇の群れに、僕は恐怖で動けなかった。その間、雫の悲鳴は止まらない。


「雫!雫!!」


このままでは拉致があかない。僕はこの状況を冷静に受け止めて握っていた懐中電灯をおもいっきり蛇に向かって投げた。だが、蛇の壁に懐中電灯はめり込みながらその姿を消した。

蛇の大群から漏れる懐中電灯の光。やがて、その光が見えなくなったとき、蛇の大群は一斉にその場から四方八方へ逃げ出した。


たった数秒の出来事だった。真っ暗な集落の真ん中で、僕を残して蛇の大群は居なくなり、雫の姿もその場から消えてしまった。

あれだけ騒いでいたのが嘘のように静まり返る集落。そして、僕は唖然として言葉を失った。


どれくらいその場から動かなかったのだろうか。静まり返った集落を見渡して、姿の居ない雫を呼んだ。我に返って辺りを見渡す。何度も何度も雫の名前を叫んだ。それでも真夜中の集落は静まり返ったままである。


「う、嘘だろう。どこへ行った?」と僕は項垂れて呟く。


「草餅さん、慌てないで下さい」


突然、暗闇から声がする。驚いて顔を上げると、なんと、浴衣姿の美玲さんが歩いて来た。まさかの展開に驚きが隠せない。姿を消した人物がこのタイミングで現れるなんて想定外だ。


「どうしてここへ?美玲さん、あなたは何者なんだ!」僕はそう言って身構えた。


「そんな顔しないで下さい。私は助けに来たんです。草餅さん、あなたはこれから見届けなくてはならない。それが選ばれた宿命であり、今後の人生をどうするのか考える為でもあります」


僕と出会ったときの浴衣姿に、赤い花輪のついた草履を履いていた。美玲さんは戸惑う僕の方へ近寄って、口許に笑みを浮かべて微笑んだ。

彼女は何かを知っている。だが、ここで質問をしても答えてくれないような気がした。何故なら、彼女はそのまま僕の横を通り過ぎると、黒土山に続く道へ向かって歩いたからだ。


「全てを知りたければ、自分の目で確かめて下さい。それと、雫さんのことは心配なさらず。私が責任を持ってお返ししますから」と美玲さんは立ち止まって背中を向けたまま言う。


そして、再び歩き出すのだった。


従うしかないのか。雫が無事なのかもわからない。だけど、今は答えを知っている彼女について行くしかない。

僕は意を決して、彼女のあとをついて行くことにした。彼女の言う、見届けること、そして選ばれた宿命の意味を知るために……


あの蛇の大群は何者なのか?いろんなことを頭の中で考えるが、答えには辿り着けない。それでも僕は、これから起こる出来事を見届けなくてはならないんだろう。

真っ暗な集落は、相変わらず静寂に包まれていた。


そして集落を抜けたとき、黒土山の麓の手前に朽ち果てた神社が現れるのだった。仲居さんから聞いていた通り、数十年前、山火事で神社に燃え移り、焼け焦げた状態のままだった。


何故直そうとしないのか謎である。美玲さんは立ち止まると、僕がそばに来るのを待った。不安なまま、彼女の横へ並ぶと、僕は彼女の指示を待つのだった。


「今から儀式が始まります。但し、私たちは儀式に参加しません。その儀式が神話に基づいて、村の女たちが行なっていました。知っている者は昔から女だけ。つまり村の男たちは知らない儀式」


「神話に基づいた儀式。それって、あなたが話そうとしていた神話ってことですか?」


「ええ、私たちの村に纏わる神話。神話であり事実でもあります。まずは二人で儀式を見届けましょう。さあ、こちらへ来て下さい」美玲さんはそう言って、僕の手を取ると草の生い茂る方へ引っ張った。


「草餅さん、これだけは覚えといて下さい。儀式の途中、誰にも見つかってはいけない。それが知っている人物であっても騒がないでほしい。守れますか?」と美玲さんが意味深な言葉を言う。


「守らなきゃいけないんですよね。儀式と言われても想像がつかない。美玲さん、あなたの指示に従いますけど、もしも、雫が無事に帰って来なかったから、僕はあなたを許さない」


僕の決意に満ちた言葉を軽く受け流すように、美玲さんは軽く笑ってから僕を茂みへと促した。

一緒になって、茂みに隠れて、そのあとは沈黙が流れるのだった。


僕は不安だったけど、好奇心を胸に抱えて、これから始まる儀式を待つのだった。


果たして神話に纏わる儀式とは?


第34話につづく

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