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第41話「蛇夜」

~最終回~


子孫を残すことが使命だと思います。そう言う意見が多い。一般市民からの意見を調査したところ、多くの人がそんな風に答えたらしい。と言われても実際のところ、何人に調査したかは不明である。

街灯宣説のように話すのは袴田美玲。
その話を黙って聞いていたが、正直なところ興味はなかった。子孫を残そうが残さないかに異論もなく、ただ聞くに耐えない意見としか思えない。


相棒が聞いたら、きっと草餅くんは興味あることしか耳を傾けないんだろうねーーと、そんなことを言うだろう。


アンケート用紙を囲炉裏に投げ捨て、美玲さんは話し終えたのか、僕の顔をジッと見つめてきた。


「あの、これで事件は解決ってことですか?」と沈黙に耐え切れず、僕は恐る恐る訊いた。


「そうですね。もう語ることはありません。あとは草餅さんが、どれだけ私のことを満足させてくれるか。正直な気持ちを伝えると、惚れた方が負けなのよね。私はあなたのことが好きになってしまったのよ」美玲さんはそう言って、その場から立ち上がって浴衣の帯を緩めた。


浴衣の前が左右に分かれて、チラリと半乳とアンダーヘアーが露わになるのだった。僕を見下ろす視線はエロチックで、肩からずり落ちた浴衣の音さえ聞こえない。


薪の燃える音。赤い炎が裸体になった美玲さんを美しく染めた。


僕の長い夜が終わる頃、蛇夜たちは朝靄の中に身を潜めているのだろうか。


翌朝、しっとりとした朝靄が黒土山を覆い被さった。宿屋に戻って部屋へ入ると、布団の上で死んだように眠る雫の姿があった。口元へ耳をすませば、寝息が聞こえる。無事に帰って来たから安心したが、起きたら起きたで説明するのが面倒である。


黒土山の祟りと説明しとくか。


窓から見える黒土山を眺めながら、僕は一眠りすることにした。少し寝て昼過ぎには宿屋を出よう。長い夜の不思議な出来事は終わったのだから。


数日後……


マンションを訪れた相棒に、とっておきの珈琲を淹れてあげる。芳ばしい香りは癒される。適度な温度で淹れた相棒好みの珈琲をテーブルへ置いてあげた。


「草餅くん、来年の七夕までスリリングな一年を過ごせそうだね」と相棒が他人事なのか、若干楽しそうに言うのだった。


「そうだね。スリリングな一年になるだろう。でも、あれほど燃えた夜はなかったよ。まぁ、美玲さんが満足してくれたのかは知らないけど」と僕も他人事のように言う。


「草餅くんのことだから、来年の七夕になったら何とかするんだろう?」


「どうだか。まあ、来年になったら考えるよ。でもさ、こんな風に自分の運命を他人に委ねられるのは初めての経験だね。今回の件で思い知ったよ。もしかしたら、人の運命って最初から他人が握っているかもしれない」と僕はそう言って、芳ばしい珈琲を一口飲んでは笑った。


三重県の奥深い村に伝わる神話。それが、どれだけ奇妙で残酷な儀式であっても、人間にとって神様なんだろう。

来年の七夕、袴田美玲が僕の前に現れるのかはわからない。もしかしたら現れないまま、二度と会うこともないかもしれない。


だけど、僕の運命を握っているのは彼女で間違いない。あの日の夜、彼女は惚れたら負けと言っていた。僕のことを本気で好きになったのか、それとも生贄として選んだ以上、命を奪いに来るのか?


その答えを知ることは、来年までお預けである。


ただ言えることは、長い夜が終わったということ。それまで来年の七夕までスリリングな日々を過ごそうと思うのだった。


~おわり~

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