見出し画像

第21話「蛇夜」

物語は過去から現在へ。

後輩の羽鳥から頼まれた依頼で、真夜中の会社へ調査に来ていた。彼の同僚で日比野鍋子が不審な死を遂げた。


死因の原因は未だにわかっていない。亡くなったのは真夜中のマンション。発見された場所は彼女の部屋の前、皮だけという姿で死んでいた。

まるで、爬虫類が脱皮したような姿を想像してほしい。


僕が無理を言って、羽鳥の勤める会社へ訪れた。事件当日、日比野鍋子は一人で残業をしていた。同時刻、羽鳥武彦も同じ階で残業。だが、お互いに残業をしていたことは知らなかった。


調べていくうちに奇妙な出来事に遭遇した。一つ目は部屋を別れて、お互いの声が聞こえるか実験した際、第二部署へ移動中に僕自身が体験したこと。

移動途中にある女子トイレから何者かが現れた。但し、その人物は見ていない。僕の背後から誰かが忠告してくれたお陰だ。


『見たらダメ』と。だけどその人物が誰なのかわからない。後ろを振り返ったときには居なかったからだ。二つ目の奇妙な出来事は、僕たち三人が体験している。事件当日、羽鳥武彦の証言をもとに、日比野鍋子が残業していた事務室の給湯室を調べた。


そのあと、事務室のドアノブをガチャガチャと音をさせる人物が現れた。だが、その人物は決して事務室に入って来ない。ビルの警備員なら入ってくるはずなのに、何故かその人物は入って来ないのだ。理由はわからないが、僕たちは警戒して扉を開けなかった。


そして、羽鳥武彦から意味深な発言を聞いた。


「何なんでしょう。確かに警備員なら入りますよね。奇妙だな。やっぱりアレが関係しているのかな」と羽鳥武彦が意味深な言葉を言う。


「え、羽鳥さん。アレって何ですか?興味深いですね」と雫が聞き返す。


「いや、先輩には電話で話してましたけど、日比野さんと一緒に会社を出たあと、妙なモノが僕のスーツに付いていたんです」


「ああ、電話で話してたやつね。何か生き物の鱗だっけ?」と僕が言う。


「はい、そうです。大学時代の友人が細胞を調べる会社に勤めているので調べてもらいました。そしたら、その鱗の正体がわかったんです。赤茶色の鱗なんですが、どうやら爬虫類の鱗みたいです。但し、日本で生息していない爬虫類。つまり新種の生き物だと話してました」


「へえ、新種なんだ。それがどうして羽鳥さんのスーツに付いてたの?」雫の質問に対して、羽鳥は首を振るだけでわからないという事だった。


爬虫類の鱗と聞いて、日比野鍋子が脱皮する前兆だったのではないかと推測してしまう。帰る間際、ふとした拍子で羽鳥のスーツに付いた。そう考えれば一様は辻褄が合う。


「あの、まだ先輩に話してなかったんですが、その鱗の正体、実は科学的に調べて爬虫類の鱗なんですが、詳しく調べたところ、その生き物が蛇と特定されたんです」


「なるほど、蛇と考えたら日比野鍋子の死に方も納得できるな。だけど、普通に考えたらファンタジーだよ。そもそも人間は脱皮しない。するとしたら彼女自身が蛇ってことだろ?」


「ホラーファンタジーかしら?ねぇ、これからどうするの。まさか蛇を捕まえるとか言わないでよ。私、爬虫類系は苦手なんだからね」と雫が真顔で言うのだった。


「どうだろう。僕は自分で確かめるまで、日比野鍋子が蛇になったなんて考えもしないよ。それよりも、蛇に殺されたと考えるべきだ。そっちの方が確率的に高いだろう。この事件は謎が多すぎる。謎を追求するなら近辺を徹底的に調べ上げるしかない」


とは言ったものの、とりあえずこの部屋から出ても良いのか考える。ドアノブをガチャガチャする人物の気配は感じられないが、どう考えても、僕たちが部屋から出て来るのを待ってそうな気がした。

これで、扉の向こう側に大きな蛇なんか居たら、それこそホラーそのものだ。


何か考えなければ……


「だったら、行くしかないですね。もう一つわかったことなんですが、鱗に付着してた成分から、どこで生息していたのかわかったんです」


「どこなの?」と僕は訊き返す。


「三重県の山奥だと友人は言ってました。微量なんですが、鱗に土が付着してたんです。その土の成分を調べて生息地を割り出す。結果、その土が特殊な成分だったので、すぐに割り出せたそうです」


果たして、羽鳥武彦のスーツに付いていた蛇の正体とは?そして、新種の生き物はホントに只の蛇なのか!?


この奇妙で不可思議な依頼は、もう少し解決するのがかかりそうだった。


第22話につづく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?