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第36話「蛇夜」

苦しみ続けて数分が経過した。日比野鍋子が背中を逸らして、後ろへ倒れ込んだ。何が起きた!?どうなってしまう!

すると、隣に居た美玲さんが、その場から立ち上がった。僕は訳もわからず美玲さんの顔を、下から見上げることしかできなかった。


「もう大丈夫よ。儀式は終わり。日比野鍋子の願いは叶わなかった」美玲さんはそう言って、茂みから歩き出して日比野鍋子の元へ向かった。


「ちょっと待てよ!どういう事だ!」僕は慌てて彼女の後を追いかけた。


「言葉通りよ。神話通りにならなかっただけ。彼女の願いも叶わない。ほら見てごらんなさいよ」美玲さんは立ち止まって振り返った。


僕の視界に入った日比野鍋子。そっと近寄ったとき、素ッ裸の彼女は白眼で口を開けたまま動かない。やがて、彼女の皮膚が見る見るうちにミイラのように乾いていく。


あの白くて美しい肌が皺々に変化するのだった。


身体中の水分が無くなり、ゆっくりとその身体はボロボロと崩れていくのだった。頬から崩れ落ちて頬骨が露わになって、次々と顔全体が崩れ落ちていく。人がこんな風に朽ち果てるなんて驚きで声が出ない。


そして、遂に身体全体が崩れて、骨だけが残るのだった。骨の一つ一つはスカスカで触れたら粉になりそうなぐらい脆そうだ。願いが叶わなかった末路と受け取れば良いのか。それとも骨になることが意味あること。


その答えを知っているのは、袴田美玲ってことになる。後ろを振り返って、僕は美玲さんを見つめた。儀式が終わった今、全てを語るという約束だ。


「草餅さん、あなただけに真実を教えるわ」


「待って!その前に何故、僕の名前を知ってるの?君と出会ったとき、僕は名前を名乗っていない。そこは、僕の勘違いでもないからね」と僕は思い出して問い詰めた。


「フフ、そうね。確かにあなたは名乗っていなかった。だから、私は教えてもらったのよ。そこで骨になってしまった日比野鍋子さんからね」美玲さんはそう言って口許に笑みをこぼした。


「場所を変えましょう。この村に伝わる神話から、日比野鍋子さんの結末がこうなってしまった物語を語るには長くなるわ」


黒土山で行われた秘密の儀式。そして日比野鍋子が悲しくも切ない結末を迎えた理由。この奇妙で不可思議な物語は終わりを迎えようとしていた。


そして僕の運命も、大きく変わるのだった。


第37話につづく

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