第22話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」
赤いシミが付いたシーツを気にする桃香。初めての経験を終えた僕たち。素直な感想は、極上の気持ち良さに感動した。あまり痛くなかったと桃香は言うけど、僕としては初めての相手が桃香だったので、そんなものなのかと思うのだった。
人によっては違うかもしれない。それぐらいの感想である。
二人して湯船に浸かると、向かい合わせで会話を交わした。話す内容は、これから待ち受ける大人の成人式についてだ。数時間前と違う気持ちだと二人ともわかっていた。
僕らはルールを破ったから。だからこそ、百も承知で大人の成人式を迎えようとしているのだ。
だけど、そんなことはどうでもよかった。桃香も同じ意見だったし、僕らがルールを破ったなんて、わかるとは思えない。サンドイッチの中身をタイミング良く、僕と桃香で美味しく頂いただけのこと。
それを他人に、とやかく言われる筋合いはない。大人時代に踏み込んだと言うなら、自分自身で責任を持つ覚悟だった。
「大人の災いが降り注ぐ」と桃香は他人事みたいに呟いた。
「千夏先生の話しを思い出しても、その事については詳しく言わなかったよね」と僕が答えた。でも、鏡の中の僕は湯船に浸かる桃香をじっくり凝視していた。
「のぼせちゃうわ……」と桃香が呟いて立ち上がった。
浴槽の内側は段差になっていた。僕は入ったとき、背中に当たって使いづらいと感じた。だけど、桃香が立ち上がって、段差のある所へ座った桃香を見て、その段差の意味を理解した。
なるほどーーと。なんて思ったとき、僕は桃香の能力を思い知らされた。人の心を読み取って、僕の欲求を満たしてくれる。
段差に座った桃香の胸が露わになったとき、湯船に浸かったままでは愛撫ができない。
欲求を抑えることができない奴は、湯船に沈んで胸を吸うかもしれない。それはまた違うパターンである。桃香の場合、僕の欲求を満たしてくれた。
目が合った瞬間、僕は寄り添うと唇を重ねた。そこから流れるように、桃香の首筋から胸へ移動する。全くもって不思議なことではなかった。
僕たちは一度の経験から、最後までサンドイッチの中身を大事に食しただけである。
火照った身体のまま、真っ昼間から肌を重ね続けたーーーー
階段下の空間で身を隠してから、何時間経過したのだろう。埃が積もるぐらい私は動かなかった。
喉が渇いたとか、お腹が空くようなことは不思議と感じない。きっと、私はルールを守ろうと強い意志がそうさせたのだろう。
何かを考えることもなかった。薄暗い階段下の空間で、一人ぼっちも寂しいと思わなかった。
だが、腕時計を見て、予想以上に時間が過ぎていることに驚いた。ここでジッと動かずにいたけど、私としては初めての驚きで、床からようやく立ち上がるきっかけでもあった。
さすがに何時間も動かないと、身体の節々が擬音となって聞こえる。背筋を伸ばして、頭の中で思考回路を起動させた。
眠っていた脳が擬音と共に目覚めた。こんな場所で、ひたすら身を隠すのには深い理由があった。
私が隠れるように、大人の成人式にも隠れたルールが存在していたからだ。私が知ったのは偶然で、それはラッキーなことだった。もしも、あの人に出会わなかったら、きっと私もルールを破っていたと思うからだ。
隠された最後のルール。それは一度成人式の会場へ入ったら、大人の成人式が始まるまで会場を出ることは禁止されていたーーーー
そんなルールを知る由もない僕たち。だから、僕たちが童貞で処女でなかったとしても、すでに、僕らはルールを破っていたんだ。
そんな真実を知ったのは近い未来だったけど、僕らは何も知らないまま、歩いて来た道を戻っていた。
そして、遂に大人の成人式が始まろうとしていた。
第23話につづく
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