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第3話「黒電話とカレンダーの失意」

 数少ない友達から、同級生が亡くなったと知らせを受けた。友達と言っても、その子は小学校までの付き合いだった。名前を聞いて覚えがあるかと聞かれたら、それは困るほど記憶として残っていない。それでもその子が病気がちで、学校を定期的に休んでいたことは知っていた。

「今晩、通夜があるんだ。お前も来るだろう。あとさ、聞いた話なんだけど吉橋の奴、亡くなる直前にお前の名前を口にしたらしいぜ」

 吉橋加代ちゃん。クラスの女子から加代ちゃんは身体が弱いから、みんなで守ってあげましょうと放課後の教室で言われたような気がした。

 そんな加代ちゃんが亡くなる直前、僕の名前を口にしたなんて信じられなかった。

 数える程しか話したことないのに。

「とにかく迎えに行くから、準備だけはしとけよな」と友人の平家はそう言って、電話を切った。

 大抵、黒電話からの連絡は最悪なことが多い。だけど、あの人からの連絡じゃないと思えば大した苦痛でもなかった。それでも今晩の通夜に関しては、苦痛に似た面倒なイベントだ。人の死は痛みを要する。胸の一部分にチクリと痛みが走るからだ。

 姉さんが亡くなった夜のことを思い出してしまう。

 どうしても、死は姉さんの死と連結して記憶のカードを切ってしまう。だから呼吸困難になって、苦しみある痛みが胸を駆け巡る。加代ちゃんには悪いけど知りたくなかった。君の死を知ったから、姉さんの死へと導いてしまう。

 悪いクセかもしれない。

 数時間後、僕のアパートに一台のタクシーが目の前に停まった。友人の平家(へいけ)がスーツ姿でタクシーから降りると、僕のアパートを見上げてた。

 平家と会うのは久しぶりだったので、僕はベランダからその様子を眺めていた。

 僕みたいな付き合いの悪い奴と、こうしてたまに連絡をくれる平家。だけど、平家が僕のことを気にしてくれるのはワケがある。

 姉さんから頼まれているからだろう。姉さんは僕の同級生、平家と三年間付き合っていたからだ。僕より二つ上の姉さんと平家が付き合っていると報告を受けたとき、僕は心からお似合いだと思ってた。

 だから、二人がこの先もずっと一緒にいてほしい。そんなことを思っていた。

 でも、姉さんは死んでしまった。

 それは、とても辛い日々が始まりを告げる出来事だった。

 第4話に続く

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