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第16話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」

人差し指と中指を優しく添えて、ゆっくりと上下運動で刺激する。自分でやる行為とは格別に違う気持ち良さが襲った。これは初めての経験で一歩手前の行為としては過激で官能的だった。

「海ちゃん、まだ時間はあるよ。こっちに来て」普通に話す桃香の声が妖艶な雰囲気を漂わせた。


階段下に移動した桃香のあとへ続いて歩く。『まだ時間はあるよ』と僕の頭の中で繰り返し響いていた。期待値は膨れ上がり、僕は素直に近寄った。

薄暗い中、桃香がゆっくりと振り返ると虚ろな目をした桃香の表情に胸の鼓動が高鳴った。


「嫌われたくないけど、海ちゃんが今思ってること。私も心の中で思ってるよ。だから……」と桃香はそう言ってから、僕の胸元に頭をのせた。


「さっきの続きがしたい」と呟きに近い声で僕は言った。


「良かった。一緒だね。海ちゃんと気持ちが繋がってる」そう言って、桃香は顔を上げて微笑んだ。


潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く


千夏先生が教えてくれた言葉が頭に響く。抱き寄せては引き寄せて、僕は桃香のぬくもりを求めた。近寄った顔と顔から唇が触れたとき、僕らはキスの続きをした。

経験が浅いかもしれないけど、僕が体験したキスは次元を超えたダンスだった。引き寄せては重ねた唇。濃厚で濡れたダンスみたいだ。

リズム感が自然と重なり、舌と舌は手を取り合って踊った。


吐息が漏れて、一歩手前のまた一歩手前へと感情が溢れる。桃香、桃香と漏れた声が、一歩手前のまた一歩手前を要求した。もしかしたら、求愛ダンスに似た感情かもしれない。

本能的に唇から首筋へ滑り落ちる。よろめいた桃香を倒さないように壁際へ詰め寄る。壁にもたれた桃香を見つめた。

桃香も僕を見つめ返した。心の声が響き渡ったような感じだった。キスからの手前の行為へと。


AがキスでBはオーラル。Cはセックス。Cまでの行為が及ぶとルール違反とみなされる。大人の成人式で決められたルールであった。ルールを破った者が大人の成人式に参加すれば、大人の災いが裁きに来ると言われている。


「あのね、さっき帯を緩めてきたの。脱いだら、一人で着付けなんか無理だから」と桃香は上目遣いで艶っぽい声を出した。


僕の欲求と、桃香の欲求はサンドイッチの中身みたいに挟んでいた。大切に挟んだ中身は味を噛みしめて食べる。

欲求はAサイドからBサイドへ流れて暗黙の了解だとしたら、僕の欲求と桃香の欲求はタイミング的に今なんだろう。

汗ばんだ手と小刻みに震えた心を添えて、僕は桃香の肩から晴れ着を左右にずらした。


肌着と白い肌が露わになる。欲求はその瞬間から興奮へと変化した。違う箇所も変化して、僕の欲求と桃香の欲求をサンドイッチの中身とする。そして僕たちは同じ思いで噛みしめる。

食べることが生きると言うなら、僕たちにとって欲求を満たす行為なんだろう。


露わになった桃香の肩へ、僕は食べる行為を始めた。不思議と聞こえない音が耳鳴りとなって響いていた。


第17話につづく

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