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第8話「潮彩の僕たちは宛てのない道を歩く」

町の市長から、ありがたいお言葉を頂きました。エコーのかかったマイクで話す中年男性。まったく知らない顔の市長に、ありがたい言葉なんて響かない。関係者の列には杖のついた老人の姿もあった。


新成人の左側に居座る大人たち。その中の一人も、私は誰かを知らない。列に並ぶ新成人たちは、かったるい顔して大人たちの話しを聞いていた。私も同じ気持ちである。そもそも成人式に関しては興味がなかった。外はしんしんと雪が降っている。この分だと明日の朝まで止まないだろう。

早いとこ、こんなくだらない成人式は終わりにしたい。だって、私の目的は他にあるんだから。


「ねぇ、君ってどこの中学だった?」


突然、私の後ろから声をかける男が居た。チラッと後ろに首を捻って確認する。金髪にグレーのスーツを着こなす男。顔はわりかし整っていたが、いかにもチャラい感じの男だった。

眉はきれいに細く整えていたし、二重まぶたでモテそうな雰囲気である。


「何か?」と私は興味なさそうに聞き返した。


「だから、君ってどこの中学だった。花中かな。いや、柳中じゃない?」と男は人を掻き分けて、私に再び質問をした。


人を掻き分けるほど聞きたいことかと思ったが、男はそれでもしつこく聞いてくる。私はあなたが言う、中学の卒業生でもないし、地元もまったく違うから関係ないでしょうーーと男に早口で答えた。


我ながら、一言も噛まずに言えたのは驚いた。


「へぇ、ずいぶん変わってるね」と男は半笑いで聞き返す。


「そうかしら、私がどこの成人式へ出ようと、あなたに関係ないでしょう」


もちろん関係ないが、もしもこの男が私と同じ目的だったら面白い。そう考えると、私は改めて男の顔を覗くように見つめた。男は私の反応に興味を持ったのか、質問攻めで話し始めた。

男の話しに無関心だったので、話す内容についてはまったく覚えていない。ただ、くだらない話をグダグダと話しているのはわかった。


「悟、守屋悟(もりや・さとる)って言うんだけど、君は?君の名前を教えてよ」


勝手に話が進んでいたのか、悟と名乗った男は白い歯を見せて聞いてきた。名前なんて聞いてどうするのと、私は心の声で言いながら男を見た。


「北城。北城(きたしろ)だけど」面倒臭いと思ったが、しつこい感じがしたので素直に答えた。


すると、悟と名乗った男は笑みを溢した。今度は下の名前を教えてよと言うのだった。今さらながら、この男はナンパかな?と思ったので、私は背中を向けて仕方なく、「美鈴……」と名乗った。


つまらない男の相手をしてる場合ではなかった。私の名前が何であろうと、この男と仲良くなるつもりはない。私が今、一番興味あることは、『大人の成人式』なんだから。


第9話につづく

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