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『芸人』を綱渡りし始めた私

『初めまして。
ピン“芸人”の「シークエンスはやとも」と申します。』

...私はいつも、上記のように必ず挨拶をしています。
ですが、私の事を認知している方で私を“芸人”だと思っている方はものすごく少ないです。

なぜかと言えば、「ネタ」という分野でテレビに出た事が一度も無いからです。

「ネットは?」と聞かれれば何度か披露させて頂いたことはもちろんありますが、「テレビでネタもやったこと無いのによく“芸人だ”なんて言えたもんだな」と周囲から言われてしまうのが現状です。
“テレビは終わった。これからはネットの時代”なんて漠然と言われる事がよくありますが、これが現実です。
実際問題、僕の人生を一変させてくれたのもテレビでしたし。

私がテレビについて思うことはまた別の機会に。

私には特技がありません。
小さな特技はありますが、飛び抜けた何かが無い限りメディアに露出することはありませんし、ネタが面白ければとっくにテレビに出ています。
ですが、一つだけ他の方と異なる点がありました。
それは“お化けが見えること”

この『違い』のおかげで私は芸歴一年目の頃からちょくちょくテレビ等に出演させて頂けていました。
本当に嬉しい、ありがたい、友達や家族も喜んでいる。
でも、私の中には考えれば考えるほど払拭出来ない悩みが膨らんでいきました。

“芸人から離れていっている”

芸人がお笑いを語るのが一番ダサいことは重々承知しています。でも、ここでだけは言わせてください。
お笑いはリアル・共感、そしてそれらに沿ったところからのズラし。
どんな先輩たちを見ていてもそう。
始めから非現実を押し付けて売れたのはほんの一部の天才のみだし、天才とはまず目指すべきものでは無い。
だとすれば、凡人は基礎を固めてズラし始めなければ、見ている誰からも共感して笑ってもらえない。

でも、“心霊”はあまりにも非現実的、始めからズレすぎてしまっている。

自分の実人生を振り返るだけで、どれだけ差別され、どれだけ虐げられ、どれだけ引きこもり、どれだけ隠し通してきたかは明白。
周囲の反応を見ているだけで「あ、俺ってどうしようもなくキモいのか、病気なのかな」と何度思い立ったことか。
大人になるにつれて悲観的な考えを持つことは徐々に無くなったが、それは私だけの問題である。
「幽霊見える」って人へのキモキモ意識はむしろ、時代が進むにつれて徐々に増幅していってる様に感じる。
少なくとも私にはそれが見えてしまう。

心霊は一昔前と比べて、あまりにも非現実的なものに変化してしまった。

この様な考えが頭から離れなくなり、1人で露頭に迷いました。
”心霊とお笑いを足し算することは不可能”だとあらゆる先輩、あらゆる作家さんに言われました。
ほんの少しづつ露出が増え始め、自分を芸人と認知する人よりも霊能者として認知する人が上回り始めました。
もう、後戻りは出来ないところに立ち尽くしている気がしてならなくなりました。

「辞めよう」

そんな言葉が脳裏に過り、気づけばネタを書く事を辞めてしまいました。
そんな僕に最後のチャンスが訪れました。それが

『ホンマでっか!?TV』

見ている人からすれば”また妙なタレントまがいが顔を出してきたぞ”という程度の印象だったかと思います。
ですが、実際問題これはありえない出来事なのです。
簡単に言えば、”明石家さんまさん、マツコデラックスさん、ブラックマヨネーズさん”この方々は他の番組でそれぞれMCをされているタレントさんです。
単体で番組を成り立たせることの出来るタレントさんが一同に集結し、かつ多くの豪華ゲストを毎度、当たり前の様に招く番組、つまり『ホンマでっか!?TV』とは、“フジテレビが社をあげて制作している数少ない番組の一つ”である事は明白なんです。
(もちろん全ての番組が全力を注がれてますが)

ゲストが毎回豪華面々であることも頷けます。
そこに、ポッとでの無名な芸人がいきなり登場することなど、本来ありえないことなんです。
なぜ出演する事ができたのかについては、長くなるのでまた別の時にでも。

本当は数々のステップを積み重ねてやっとたどり着くことの出来る領域に、僕は飛び級で足を突っ込むことになりました。
番組が決まった段階で、ゲロ吐きそうになりました。
でも、一世一代のビッグチャンス、来るXデーに失敗るわけにはいかない、未経験の気合と覚悟が自分の中で渦巻きました。

ですが、本番が近づくにつれて私の中に大きな変化が訪れました。

ここからは少し嫌味な言い方に聞こえるかもしれませんがご容赦ください。
本番に向けて、数えられないくらいの打ち合わせを行い、沢山の初めましてを繰り返すことによって自分に変化が訪れたのです。

私がこの貴重な期間に出会った人たちは共通して”一流”の人たちでした。

具体的に言うと”自分がやりたい事と求められている事の間を探り、それを対価に変える力と思考を持っている人々”でした。
今まで出会ってきた世界とは異なるというか、私が持っていた固定概念など簡単に崩れ去る多様性を目の当たりにしたのです。
もちろん本番当日に向けて緊張が高まっていくことに変わりはありません。

でも、最初「ゴール」であったはずの収録が、いつの間にか自分の中で「スタート」に変わっていたのです。

やりたいことを想像通り全て叶えようとする事は理想論。だけど、その全てを捨てなくても、自分の信念と本質を残したまま続ける手段は想像もつかないほど多様に存在している。
たった一つのお仕事が、私にその全てを教えてくれました。

放送後、それはそれはとてつもない反応を皆様から受ける事ができました。
でもそれは、“幽霊が見えるから”ではありません。
多くの可能性と奇跡、そして決して表舞台には出る事のない”一流”の人々の多様性と助けがあったからこそ。

私は私に関わった全ての人々の力で、生まれて初めてスタートラインに立ちました。

この世界に入った当時思い描いていた未来とは違った。
でも、絵空事を思い描いているうちは幾つになっても青春のまま。

これから先、私が「芸人」と呼ばれるのか「霊能者」と呼ばれるのか「心霊芸人」と呼ばれるのか。
それは全て、自分次第。
でも、その全てがもう絵空事ではなくなった。
可能性を探す力をもらった私のこれからを「芸人」にするのは私だ。

だって私の魂はまだ、綱渡りではあるけど、「芸人」であり続けているのだから。
どうせ綱渡りをするならば、絶望して泣き叫ぶより、渡り方を常に考え続けながら、ワクワクドキドキする。そんな人生にしたいから。

今私は、生まれて初めて芸人になった。

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