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あなたの成人式は、どんな成人式でしたか?

74年生まれの僕の成人式は94年1月15日。三浪したものだから、当時は二浪目だった。

センター試験の日でもあった。当時はセンター試験も成人式も、1月15日に行われるのが通例だった。

私立大学は3教科での受験が普通だけれど、国立大学はセンターで5教科すべてを課す。国立を受けるほどの器用さはなく、私立も2教科で受験した僕はセンターを受けることはなかった。

成人式でも地元静岡に帰るつもりはなかった。当時代ゼミ代々木本校の地下にあった自習室で、一日中勉強をした。それが僕の成人式。

「神が憐れんで合格させて頂けるのでは」

そんな期待を込めての一日だったが、結局、夜間以外のどの大学にも受からなかった。

上京した当初は青梅市に住んだ。新聞奨学生をしながら立川の代ゼミに通わせてもらった。人間関係も仕事もうまくいかなかった。考え事をしているからか、配達ミスを毎日出した。だから周りの人間に軽蔑された。

配達地域が遠かったものだから、配達ミスの新聞を届ける行き帰りだけで一時間はかかる。気ばかり焦って勉強に手が付かないのだから、何時間かかろうと成績に変わりはないけれども。

どれだけ注意しても必ずミスをするから、情けなくて部屋で頭を抱えて泣いた。どんなに気をつけてもミスが無くならなかった。どうしようもなく、ただ自分の無能さを嘆くしかなかった。

それでも青梅市の風景は美しかった。静岡とさほど変わらない住宅やお店が並ぶだけだったけれど、朝日に映える街並みも、夕焼けに染まる子供たちも息をのむほど鮮烈だった。

今でもまたあの町をバイクで走りたい。そう思っている。

GWを過ぎて新聞配達を諦め、京王線の南平駅近くにある予備校の寮に入れてもらった。新宿まで一時間かかり、朝は暗いうちに出発する。東京ではそれが当たり前だと聞いて驚いた。

予備校の講師陣は一流どころがそろっていた。旺文社のラジオ講座を担当している先生、受験生必携のベストセラー参考書を書かれている先生、年収一億を超えている先生が何人もいた。

教え方も情熱も見たことがないレベル。彼らに憧れて、彼らのようになりたかった。河合塾で物理の講師をされていた田原真人さんに最近聞かせていただいたのだけれど、当時は全共闘にいた方が本気で日本の教育を変えるために予備校を選んだのだそうだ。迫力はそこから来ていた。

どうしても勉強をしなければならないのに、どうしても手につかなかった。寂しくなって酒を煽ったりポルノに手を出したりするけれど、一向に落ち着かないし成績も上がらない。階段を転がり落ちるように何もかもおかしくなっていった。

気晴らしに新宿の街を歩いた。何時間も何時間も歩いた。しょんべん横丁と呼ばれる飲み屋街や、日本一有名な書店の紀伊国屋書店のあたりを。現役の時に大学受験で泊まった新宿中央公園のホテル、そのとき寄ったラーメン屋にも入ったりした。

クズになった自分を捨てて、やり直したかったのだ。

誰ともしゃべらず、ひたすら一人だけで歩く。危なそうなところを通っても、若かったから走って逃げればなんとかなると思った。誰とも話さないものだから危険は極端に少ない。東京を離れるまで人と目を合わさなかった。

自習室で勉強に身が入らなくなると、昼頃から歩き回る。

「クズ」

そう思うのだけれど、なんともならない。いつの間にか夕暮れになり、それから新宿高層ビル群のあたりを目指す。オレンジ色に染まった文化女子大学のそばを通り、都庁のあたりに抜ける。かと言って、誰とも会いはしないが。

時間までに寮に帰らねばならないのだけれど、夜も歩き回る。いかがわしい駅の裏の本屋に入り、やるせないサラリーマンたちに紛れて惨めな自分を隠そうとした。

悩んで寮の部屋で叫んだり、気味の悪い本を捨てたりするものだから誰も声をかけない。それでも絶対に合格しなくてはならないと思った。手に付かない勉強をなんとかこなそうと歯を食いしばる。

成人式を過ぎれば状況も好転する。

そんな淡い期待を抱いていたが、そこから取り憑かれたように酒に溺れてしまった。はじめて自分でアル中を疑ったのがあの頃だ。

槇原敬之の92年のヒットソングに『遠く遠く』という名曲がある。


同窓会の案内状
欠席に丸をつけた
『元気かどうかしんぱいです。』と
手紙をくれるみんなに

成人式の日、一本の電話もなかった。

「間違っていたんだろうな」

酩酊しながら、街の華やぎを呪った。

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お読みいただきまして誠にありがとうございましたm(_ _)m
めっちゃ嬉しいです❣️

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是非お読みくださいませ(^○^)

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書籍の紹介動画です。

お読みいただきまして、心より感謝いたしますm(_ _)m

サポートありがとうございます!とっても嬉しいです(^▽^)/