人生を決める先生というものは、いわゆる立派な先生ではないのだと思う

以下は文芸社の「人生十人十色大賞」に応募しようと思って書いたものです。お目汚しすみませんm(_ _)m
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人生を決める先生というものは、いわゆる立派な先生ではないのだと思う。僕が一番好きだったのは小学校4年生のときの安間潤一(やすま じゅんいち)先生である。

別段、安間先生に教えてもらって、とてつもなく成績が伸びたわけではないのだ。世界を生き抜く哲学を教えてもらったわけでも、一子相伝の暗殺拳法を授けてもらったわけでもない。ただ、とても元気で僕らとよく遊んでくれる先生だった。

僕の担任になる前、一つ下の友達の”ひでちゃん”の担任をしていたときには、

「安間先生がね、安間先生がね、、、」

と、ひでちゃんがしきりに先生の話をするものだから、なんだかとても羨ましかった。

だけれど、うちのお母さんが聞いてきた話では、

「ひでちゃんの担任の先生ね、怒ると生徒を逆さ吊りにしてプールに頭からぼちゃんって漬けて、怒鳴ったりするんだって!」

「なにか、自分の言うことは絶対みたい」

そんな鬼教官のようだと話してくれた。断っておくが、昭和の話である。

果たして安間先生とは天使か悪魔か、僕は気になってひでちゃんに聞いてみたのだった。

「ひでちゃんの先生って、男子を逆さ吊りにしてプールに漬けたりするだ?」

「え? なにそれ、超面白いじゃん!」

「いや、違うに。怒ってそうするってお母さんが言ってたに」

「は? しないよ」

「でもお母さんが言ってたに!」

「え〜? あー、あれかな」
「別に女子にもやる」

「マジで!! 嘘!! 超怖いら!」

「あー、そんな怖くはないよ」

そんなわけでぜんぜん話が噛み合わなかったために、安間先生が果たして天使なのか悪魔なのか謎のまま、僕は4年生に進級したのだった。

1985年、4年生の担任をしてくれたとき安間先生は23歳だったから、学校に来てまだ2年目だったんだと思う。

「先生は体育が得意です。昼休みには一緒にドッヂボールをやろうね」

「お〜〜! マジ〜〜!!」

「あと、先生は性格が悪いです」

「ハハハ! なんだそれ!」

最初の自己紹介でそう言ってくれたものだから、やんちゃのトシくんが早速昼休みに先生を誘っていた。そして性格が悪いのは見た目では分からないけれど、そのうち分かるのだと安間先生が自分で言っていた。

「トシくん、よく先生誘えるね!」

「楽勝だぜ。だって自分からやろうって言ってたじゃん」

「でも、本当に来てくれるかな?」

「来るよ。来なかったら許さんもん」
「だって自分からやろうって言ってたじゃん」


昼休みは45分間。僕たちは給食を一瞬で平らげて、運動場でドッヂボールを始めていた。

開始5分。

「先生まだ来ないね」
「俺、呼んでくる」

トシくんが呼びに行った。

「すぐ来てくれるって!」
「おぉ! やったぜ」

開始10分。

「やっぱ来てくれないら」

「絶対来る」
「だって、さっき来てくれるって言ってたもん」

「やっぱり呼んでくる」

開始15分。

「・・・・・・」

「呼んでくる!!」

トシくんの三顧の礼で、安間先生はやって来た。

もしかして読者諸兄姉は、「3回も頼めば諸葛孔明ですら動くのだから、安間先生だって来てくれても当然ではないか」と思われるかもしれない。

しかし半年以上経って聞いたのだけれど、どうやらトシくんは職員室で泣きじゃくって「来てくれないなんて、あんまりだ!」と猛抗議をして、やっと来てくれたのだという。

僕はこの時、ガキ大将が裏でどれだけ努力しているかを初めて知ったのだった。そしてトシくんは安間先生の性格の悪さを初日から学ぶことになったのだけれど、そのあたりのことを気にしている様子は微塵もなかったのである。

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起業家研究所・学習塾omiiko 代表 松井勇人(まつい はやと)

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