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今あなたがいるから



「怖い怖い~!!」
「悪いけど、腰に湿布貼ってくれへん??」
「もう暗いけど、家に帰りますね」

介護の世界に入って初めての夜勤。その日はあいにくの嵐だった。何かあったら連絡して、と主任から告げられた後、完全に1人でこなさなければならなくなった。何かあったらの「何か」が全く分からない不安の中、長い長い夜が始まった。

そこは担当のフロアではなく、応援で急遽入ったフロアで、夜の様子どころか日中の様子も何もわからなかった。そのため、まずは顔と名前の確認からという状態であった。にもかかわらず、お年寄りたちはいつもの夜かの如く様々な要求を投げかけてきた。

雷が鳴り響く度にナースコールを押すおばあさん。初めて見る顔の若き男子に惜しげも無くおしりをむき出しに湿布を貼り付けさせるおばあさん。せっせと荷物をまとめ、帰ろうとするおじいさん。
これが夜勤か…と戦慄したのを覚えている。
⁡こまめに巡視に行ったのは、お年寄りが心配だったのではなく、自分が不安だったからだ。じっとしていると、何かに飲み込まれそうな感覚があり、無駄に記録を何度も見直したり、片付けを始めたり、その落ち着かない心をお年寄りへの気遣いへと無理やり変換させていたのだろう。初夜勤は、不安との戦いだった。


またある時の夜勤では、眠れないおばあさん同士がフロアの真ん中でかたまって寝ようとしたので、慌てて布団を敷き、そこで寝てもらった。修学旅行のような雰囲気を出し、楽しそうに眠りにつくおばあさんたち。やがて朝を迎え、目が覚めたおばあさんたちは、「誰か知らん人が隣で寝てる!」「あんたこそ誰やの!」と喧嘩を始める始末。

そしてまたある時の夜勤では、眠れないおばあさんたちが何人も集い、おしゃべりに花を咲かせ、もはや昼間と変わらない状況となってしまい、諦めて電気をつけお茶菓子でもてなす、なんてこともあった。



介護施設では今も尚、誰かが夜勤に入り、不安を抱えていることだろう。何かあったらどうしようか。転けたら責任問題になってしまわないか。もしかしたら亡くなっていたなんてことは…

その気持ちは十分わかる。いくつもの夜を越えてきたからこそ、その不安に押しつぶされそうになる気持ち、それを共有したいと願う気持ちもわかる。

そんなあなただからこそ、お年寄りたちは安心して朝を迎えることができるのだ。この介護施設で働く上で、今宵、誰が1番頑張っていて偉いのか、それは間違いなく夜勤に入っているあなたなのだ。

その人らしい生活を支援する。そのために避けては通れない、夜の介護。予期せぬ出来事や、経験したことの無いアクシデントに出会うこともある。
この夜を凌げば、太陽は昇る。だが、そうしたら必ずまた夜になる。そんな繰り返しを支援出来るのは、今宵夜勤に入っているあなたがいてくれるから。

お年寄りの安心の為に、夜通し頑張る全ての夜勤者に、改めて敬意を表したいと思う。

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