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失敗したという経験を得る

人は役割を見出すと、生き生きとする。
なんてことが本に書かれていた。

新人時代、家に帰ろうとして施設を何度も飛び出していくおばあさんにたいして、ここに居てもいい、安心してもらえるようにしようという話が出た時、役割を持ってもらおうということになった。

役割を持ってもらう時のポイントとして、
①今の身体で出来ること
②過去にやっていたことか、それに近いこと
③みんなから認められること

この三つを意識して考えよう、ということに。その方は昔、美容院を経営していたということから、お風呂上がりの入居者の方の髪の毛を乾かしてもらう、という役割を作った。

三面鏡も用意し、いざお願いしてみた。すると意外に乗り気で、おばあさんは意気揚々と仲良しのおばあさんの髪の毛を乾かしてあげていた。

よし!これで役割が出来た!と喜んでいた僕らだったが、効果があったかと言えば、そうでもなかった。いわゆる帰宅願望は相変わらずで、減るどころか、そのうち髪の毛を乾かすこともすごい拒否を示し、家に帰る以外に色んな場所へ出かけようとし始めた。

ここで僕らは間違いにようやく気づいた。
その方は美容院を経営していたのであって、実際にはお客さんへの接客はあまり関わっていなかったというのだ。つまり、②過去やっていたこと、に該当しない役割を当てはめてしまっていたのだった。

そこで再び考えることに。美容院の経営者は何をしているのか?
全く検討もつかなかったが、ひょんなことから解決することができた。
職員がフロアのゴミをほうきで集めていた時、おばあさんが代わってくれたのだ。

「私得意やで、やったるわ!」

そう、おばあさんは昔、お店の周りをよくほうきとちりとりを持ってもらおう掃除していたのだった。
新たな役割を得たおばあさん。毎朝フロアを掃除してくれるようになり、自然と帰宅願望は減少していった。

無論、時折思い出したかのように施設を飛び出そうとするが、その時はそっとついていくことにした。何より日常業務をサボれるから喜んでついていった。笑
繰り返していくうちに、おばあさんは何となく僕のことを覚えてくれていて、毎朝の掃除中に僕が邪魔して、おばあさんがほうきを持っておいかけてくる、というのが日課となった。


ケアを行うにあたり、どうしたって上手くいかないことの方が多い。ただ、それは失敗したという経験を得ただけだ。今度はこれをしてみようあれをしてみよう。試行錯誤の結果、上手くいけば万々歳。
大切なことは考え少しずつでも行動していくこと。
答えはきっとお年寄りが出してくれる。

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