道具に罪はない
「センサーマットは拘束?」「4点策はダメだけど3点ならOK」「車椅子に座りっぱなしはダメ」「リフトは……」
介護の現場では毎日多種多様な福祉用具が使用される。携わる方の生活行為拡大のため、介護職の良き相棒となっている…はずである。
作られた道具は、必ずしも製作者の意図した形で使用されるとは限らない。包丁で人を刺してしまうという事件は、無論製作者のせいでも包丁そのもののせいでもない。
利便性とリスクとの兼ね合いは常に議論されるものだ。使用者の知識や技術、人間観に左右される。
とあるおばあさんのお話を紹介しよう。
寝たきりで入居されたおばあさんは、エアマットを使用していた。臀部には大きなポケット褥瘡が出来ており、その褥瘡が形成されそうになったからエアマットに変更したとのことだった。寝たきりで自分で動くことのできない方への、ごくありふれた対応だ。
報告の中で、おばあさんはベッドから転落したことがあるという。
身動きできないおばあさんが転落?
そのよくわからない報告を、さらに詳しく聞いてみた。そして驚愕した。
おばあさんは自分で寝返りをうって、そのエアに押されて転落したそうです。
自分で寝返りができる…ならこのエアマットは一体何のためのものだ。自分で寝返りができる方に対して寝返りができなくなるような道具の使用。これこそ拘束に値するのではないか。そしておばあさんは転落。幸い怪我には至らなかったが、これほど馬鹿げた事故もないだろう。
ちなみにおばあさん。すぐさまエアマットを普通のマットに替え、トイレに誘導するようになってからはみるみるうちに褥瘡は治っていった。自分で寝返りもでき、ベッドへの端座位も可能になった。
道具に罪はない。結局のところそういうことだ。
不適切な福祉用具の使用は、お年寄りのQOLに直結する。
道具には、その道具に見合った適切な使用方法が存在するのだ。それを見誤れば、諸刃の剣となり、その方を深く傷つけてしまうだろう。
エアマットが拘束なんじゃない。どう使うか。福祉用具を良き相棒とするために、僕らの力量が試されている。
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