スパイク選び

入部して数ヶ月が経ったが、俺はまだスパイクを持っていなかった。まだ大会に出ることもなかったし日々の練習はランニングシューズで充分だった。

夏になり、3年生の先輩が引退し、新人戦も近づいてきた。まだ自分が出られるかは分からなかったが、そろそろスパイクも購入しておかないとなと感じていた。

当時は、今ほどネットも充実していなかったため、どんなスパイクを選べばいいのか分からなかった。
そこで、俺は渉にどのスパイクにすればいいか聞いてみようと思った。

渉は、陸上にとても熱心でストイックでカッコイイ奴なのだが、自分のポリシーがあって、連絡先を誰とも交換しなかった。だが、マネージャーとも交換しないと大事な連絡が行き届かないということで、au同士だけが送受信できるCメールというサービスで聖多が毎回連絡をしてくれた。

俺は渉にダメ元で、スパイク選びに付き合ってくれないかと頼んだ。するとすんなりOKしてくれた。

球技大会の後にゼビオに行くことにしたのだが、問題があった。
連絡先を知らないため、どうやって待ち合わせをするかだ。

お互いクラスも違うため、ホームルームが終わったら下駄箱に集合することにした。

当日、クラスのホームルームが終わると俺は教室を急いで出た。もしかしたら、渉はいないかもしれない...もしいなかったら連絡を取る手段はない。

下駄箱に着くと、渉が待っていてくれた。なんかそれだけでも嬉しかった。そこから、2人で球技大会の話なんかをしながらゼビオに向かった。
傍から見れば、日頃から遊んでいるような、ごくごく普通の高校生2人組だったと思う。

渉は俺にアシックスの「サイバーブレード」というスパイクを勧めてくれた。いろいろ説明もしてくれた。俺はまだ陸上について詳しくなかったので渉に勧められるがまま、このサイバーブレードを購入した。見た目も凄くカッコ良かった。

後から寺田に聞いたのだが、このスパイクはデザイン賞も受賞していたらしい。

渉が選んでくれたということもあって、俺はとても気に入った。

渉はこの日スパイクの購入はしていないが、ミズノの「クロノインクス」という当時スプリンターの最高峰とも言えるスパイクを観察し、試し履きをしていた。最後の総体は必ずこのスパイクで出るとも言っていた。

高3になり、渉は本当にこの「クロノインクス」を購入し、総体では大活躍だった。俺は、このとき購入した「サイバーブレード」で最後のマイル(4×400mリレー)を走り切った。

渉と2人で出かけたのは、これが最初で最後。スパイクには数々のレースの思い出が残っているが、渉との貴重な思い出も詰まっている。


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