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空中分解

2016年に解散したSMAPが、解散騒動の渦中にあったときのこと。
番組内でキムタクが「このままの状態だと、SMAPが空中分解になりかねない」と話していたのが印象的だった。

実は陸上部も、空中分解しかけたことがあった。

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高総体の地区予選が始まった。3年生の俺たちにとっては最後の大会である。

県大会では4日間で全種目が行われるが、地区予選は2日間で行われる。そのためみんなの走りをゆっくり応援する時間はなかった。

地区予選2日目。
全種目が終了した。俺は個人種目、リレーなど休む暇もない慌ただしい2日間だった。

間接的にではあるが、誰が県大会に進んだなどの情報は耳に入ってきていた。

スポーツは勝負の世界なので、勝者が生まれれば敗者も生まれる。

今回の地区予選で言えば、予選を通過する選手がいれば、予選で敗退する選手もいる。

こんな当たり前のことが、俺は頭からすっぽり抜けていたような気がする...

地区予選の全ての種目が終了し、うちの高校のブルーシートに戻ると少し重い空気が流れていた気がする。

地区予選で敗退した選手が数名出たからだ。

また敗退した選手たちは、県大会に進む選手のことを気遣い、今後の部活動の参加を控えたいと言っていた。

俺は県大会まで、全員で部活をやるつもりでいたのですごく悲しかった。

久貝も残念ながら予選を突破することができず、県大会を前に引退が決まってしまった。

種目は違えど、久貝とは県大会でも一緒に走りたかったので残念な気持ちと、強引に陸上部に誘ってしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

礼儀正しい久貝は、マネージャーに向かって
「今まで本当にありがとうございました。」
と頭を下げていた。

それを聞いて、マネージャーの麻実は泣いてしまっていた。

(もう何やってんだよ、久貝!)

と心の中で思いながらも、久貝に何も落ち度はなかった。

一番悔しいのは県大会に進むことができなかった選手だし、それを悲しむのは周りのみんなも同じだ。


この状況に自分自身どうしたらいいのか分からなかったが、何も行動しなかったらチームが空中分解してしまうことだけは確かだった。

不器用な俺は、県大会に進むことができない選手たちに「また部活に来てくれないか」と頼むドブ板営業くらいしか思いつかなかった。

一人一人に会って交渉する時間はなかったので、ターゲットを絞ることにした。

そのターゲットとは、久貝と聡汰の2人だ。

まず久貝を選んだのは中長チームの構成を考えたときに、久貝が抜けるのはどうしても不安だったからだ。

このときの中長チームの3年生(男子)は、久貝と智也の2人であり、チーフの久貝は絶対に必要だった。

このあたりの記憶は少し曖昧になっているが、俺は久貝に想いだけは伝えたと思う。結局久貝は最後まで部活に来てくれたと記憶している。

そして、聡汰。
聡汰は怪我が治らず、地区予選に出場することができなかった。

新人戦ではリレーでも活躍していただけに、出場すらできなかったのは本人が一番悔しかったはずだ。

そんな中、地区予選で俺たちの走りを一生懸命応援してくれて本当に嬉しかった。

県大会には出場できないとしても、聡汰が部活に来てくれれば間違いなくプラスの力を与えてくれることを確信していた。

また当時の心境を正直に白状すると、俺にはこんな下心もあった。

(怪我で総体に出られない聡汰が部活に足を運んでくれれば、周りのみんなも来てくれるんじゃないか...)

俺は聡汰に自分の想いを全て伝えた。
だが今振り返ってみると俺がやっていることはめちゃくちゃだった。

怪我で出られない選手(敗退が決まっている選手)にこれからも部活に来てほしいと言っているのだから。

だが俺の想いが通じたのか聡汰は俺の話を分かってくれた。

聡汰達は、今後も部活に参加することで県大会に向かってトレーニングを行う俺たちの士気が下がることを危惧していたみたいだった。

そのため俺がこんなふうに言ってきたことに驚いていた。そして、必要とされていることが嬉しかったみたいだった。

結局、聡汰達は毎日とまではいかなくても部活に来てくれた。

こうして俺たちは、空中分解の危機から脱することができた。

今回のこの「空中分解」は、誰が悪いわけでもない。相手のことを思って行った行動が、皮肉にも相手を傷付けてしまったという出来事でした。

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