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幸せの在り処


#結婚式の思い出

私のいとこ姉妹は、ちょっと稀有な姉妹である。二人が二人共、結婚式当日に相手と別れているのだ。
私はサラッと書けるが、本人達の苦悩と言ったらなかっただろうと思う。

姉Aの方の結婚式には私も親族として列席した。
相手の方は一流大学を優秀な成績で卒業し、一流企業に勤めている方だった。凄い人と結婚するんだなあ、と私は羨望の眼差しで見ていた。

ただ、肝心のA本人はちっとも嬉しそうではなく、終始泣いてばかりいた。結婚式ってこんなに花嫁さんが悲しい顔をするものなんだろうか、とまだ高校生だった私は、心の奥の方に引っかかる物があった。

二人はお見合い結婚だった。
Aには当時、好きな人がいた。だが、その人は所謂「一流大学」卒ではなく、実家も裕福ではなかった。
ただそれだけの理由で、Aはその人との結婚を親に猛反対され、別れる事になってしまった。
その後すぐ、相手は別の女性と見合い結婚してしまった。
Aは「もう誰でも良い」と言って、親の勧める相手と結婚を決めたという事だった。

だが当日が近づくに連れ、迷いが生じた。当日までに逃げようかと思っていたそうだ。だが、状況がそれを許さなかった。
そのまま当日を迎えてしまったのだと言う。

披露宴が終わり、ホテルの部屋に戻った時、相手の男性と些細な事で大喧嘩になった。
もう限界だったAは、そのままホテルを飛び出し家に戻ったのである。
家族はさぞ驚いた事だろうが、Aは晴れ晴れした顔をしていたそうだ。

妹Bの方は事情が違う。
こちらは好きになった相手と、無事結婚までたどり着いた。
姉の件で親も凝りたのか、二人の交際に一切口出ししなかったからである。
トントン拍子に進み、結婚式も無事和やかに行われ、ウチの両親も「いい式だった」と言って帰ってきた。

が、暫くして「その日の内に帰ってきた」という事が知らされ、私も驚いた。
聞けば、やはり親が一枚噛んでいた。
相手の家は母子家庭だった。別に何の問題もないと思われるが、いとこの親はここに引っかかった。
相手が家に挨拶に来た時、チクチクとこの点を追求したらしい。相手は真摯に受け応えしていたらしいが、嬉しくはなかっただろう。
それ以来、二人は妙にギクシャクし始めたらしかった。
そして披露宴後、Aと同じようにやはり部屋で喧嘩になり、Bはその場で結婚指輪を抜いて返してきたのだった。

Bが帰ってきた時、流石に親は目に見えて凹んでいた。かける言葉もない感じであった。
Aは「Bには私みたいな目に会って欲しくなかった」と言って嘆いたらしい。

どうしてこんな事になったのか、は明らかだ。親が本人達の意思を全く無視し、押さえつけ、自分達のつまらないプライドを最優先したからである。
子供の幸せを望んでの事、と当人達が嘆くのを、私は違和感を持って眺めていた。当時はその違和感の正体が何なのか、私にはわからなかった。

子の『幸せ』を望むのは親として当たり前の事。それは正しいと思う。
ただ、この両親はこの『幸せ』の存在場所を間違えていた。
『幸せ』はその人の心の内にしかない。例えそれが自分の愛娘であったとしても、『娘は自分とは別人格である』以上、『各々の幸せは各々の心の内にしかない』。
『各々の心の内にある幸せ』の実現をそっと願うのが、親のしてやれる唯一の事なのだと思う。

二人は今はそれぞれ伴侶を得て、幸せに暮らしている。
二人の身に起こった事件は、遠い過去の事になりつつある。





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