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カタログギフト

「これ、お前決めて申し込みしといて」
先月のある休みの日、夕食後にゆっくりしていると、夫がこう言って一冊の厚い冊子を投げてよこした。
見るとカタログギフトである。
「これ、どうしたん?」
「同じ部門の若い奴が結婚してな。欲しいもん訊いて、みんなで金出して結婚祝いの品を贈ったんや。その返しや」
「ふうん」
パラパラとページを繰る。

カタログギフトの常なのだが、パッと見たところ、凄く欲しい!というものはない。
「なんか欲しいもん、なかったん?」
夫がした祝いなんだから、自分が欲しいものを選べば良いのに、と思いつつ問うてみると、
「ないからお前に渡したんや」
と夫は面倒くさそうに言って、畳の上にゴロンと横になった。
あ、そう。既に自分ファースト目線で見てみたのね。この人だもん、そりゃそうか。

となると、意地でも私が欲しいものを探さねばならない。よく見ると、注文の期限まで一週間を切っている。ちょっと慌てた。
「いつもろた(※貰ったの関西弁)ん、これ?」
「ええとなあ・・・忘れた、結婚しよったんが四月やったから・・・なんせだいぶ前や」
いつものことなので、怒る気もしない。
カタログを寝かせておいたら中の商品が熟成して、グレードアップするわけでもないんだから、さっさと渡せば良いのに。
さては良い商品がないか必死で探してたけど、品目が多過ぎて面倒くさくなって断念して、忘れてたな。
しょうがないので、今度は私が必死になって商品を探しにかかる。
夫はうたた寝を始めてしまった。完全に興味は失せているようだ。
では、好きに決めさせて頂きますよ。

生活に欠かせないもので、買い物で持ち帰るのが重くて嫌な消耗品が良いんじゃないかな。
米なんてどうかな、と思ったが、夫がふるさと納税で頼んでいるのが毎月五キロやってくる。ダブったら家で古米になってしまう。そんなの勿体ない。即却下する。
肉?美味しそうな写真やけど、この帯に短く襷に長い微妙なグラム数。どうやって食べろっちゅうねん。おかずにならん。却下。
食べ物でなくても良いか、と後ろの方にある『紳士洋品』のページをめくる。
ベルトか。そう言えばこの人しょぼいのしてたなあ、と思いつつ商品を見るが、なんだかオッサン臭いのばかり。こんなの貰っても、絶対しないに決まっている。しま〇らで見た方が、夫の気に入るのありそう。これも却下。

自分のでもええやん、と気を取り直して『婦人洋品』のページを見る。
日傘。ほぼ毎日見ているから、大体の値段が分かってしまう。これ、こんなに高い筈ない、カタログギフトやからってなめんなよ、とつい無駄な闘志を燃やしてしまう。当然却下。
アクセサリー。このペンダント、ダサい。こんなん、誰が貰うんかな。大体、いつすんねん。要らん。却下。
こんな調子でなかなか決まらない。

キャンプ用品。行かへん。却下。
ヨガ教室一日体験。場所を見ると長野。交通費考えたら、こっちで行く方が安い。却下。
アロマキャンドル。カタログでは香りが分からん。気に入らんかったら箪笥の肥やしになるだけだ。却下。
こんな調子で時間ばかりがいたずらに過ぎていく。
私もボツボツ面倒になってきたが、期限がある。選ばねばならない。

原点回帰することにする。
重いもの。消耗品。必ず使うもの。ここを基準に考え、もう一度始めから丹念に見直していく。
ふと、あるページで手が止まった。
『醤油九百ミリリットル入り 三本セット』
お、良いねえ!ほぼ毎日使うやん。醤油も最近どんどん値段上がっている。特売日にまとめ買いしたいが、持って帰るのが重くて、せいぜい一本しか買えない。
一つはこれに決定。千五百ポイント。

あと三千五百ポイント。
食品はもういい。あとは消耗品で、最近買い替えたいとか思っているものなかったっけ、と思いつつ探していると、良いのがあった。
『保冷式エコバッグ 大』
これだ!
今使っている保冷バッグは大きくて丈夫で、凄く使い易いのだが、あまりに毎日酷使したせいで、ボツボツ縫い目が綻んできている。
自分の売り場で買ったのだが、最近店が取り扱いを止めてしまい、ちょっと困っていたのだった。
渡りに舟、とポチる。

「エエの、あったけ?」
寝ぼけ眼の夫が横になったまま、話しかけてきた。
「うん!お醤油と保冷エコバッグ!どっちも欲しかってん。もう送信しといた。ありがとう!」
面倒を押し付けられたのではなく、良いもの貰った、と思うことにする。
「そうけ、そんなエエのあったけ。ほんなら良かった」
夫は嬉しそうにニコニコした。
今度からはもうちょっと早めに持って帰ってねえ。