見出し画像

頑張れ!新人さん

クラリネットの練習の為に、私がよく利用しているカラオケ店に、最近新しいバイトが入った。
20歳そこそこという感じで、健康的な可愛いお嬢さんだなあ、と思っている。

このお店に通うようになってそろそろ半年、従業員はほぼ全員顔馴染みである。
お得なプランを教えてくれたり、暇な日は広い部屋を割り当ててくれたりする、気働きのするTさん。保育園児のお母さんでもある。
大学生のAさん。テキパキしていて、挨拶が丁寧。何も言わないのに、グループで入っている部屋と隣り合わせにならないよう、気を配ってくれる。エレベーターに乗るまで、いつもお辞儀して見送ってくれる。
このお二人の他に、遅い時間だと男性アルバイトが二人と、店長さんがいる。

新人さんはNさんという。
新人だから無理もないが、この人なかなか手が遅い。
私も今は職場で初心者マークを付けている身であるので、彼女には妙に親近感が湧く。お互い、失敗もあるけど頑張ろうぜ、と言う感じで見ている。

Nさんはとても慎重である。レジの画面を指差しして確認し、ウンウンと一人頷きつつゆっくりゆっくり打つ。
私はじっと見守りつつ待っているが、気の短いお客さんだと、カウンターに肘を付き、指をトントンしながらイライラしているのを見かける事もある。早くしろ、と言わんばかりである。そんな時、Nさん大丈夫かな、とちょっと心配になる。

感心するのは、どんな時もNさんが満面の笑顔である事だ。
お客さんがイライラしようが、レジの次の操作がわからなかろうが、お客さんに聞かれた事に答えられなかろうが、彼女はいつもニコニコしている。
これだけ笑顔でいると、お客さんも怒りづらいだろう。笑顔は最強の武器である。

このカラオケ店は最初でも最後でも精算を済ませる事が出来るシステムになっている。
スムーズに帰れるように、私はいつも最初に済ませてしまうのであるが、ある時Nさんはどうしてもレジ操作が出来なかった。
レジの画面とすったもんだして5分程私を待たせた挙げ句、
「あのー…お帰りの時にお願いしても良いですか?」
と控えめに聞いてきた。
普通なら腹をたてる所なのだろうが、ニコニコしながらレジと一人で格闘している彼女を見ていると、なんだか情が移ってしまった。
苦笑いして了承し、その日は最後に支払った。支払い時は店長さんがレジにおり、すんなりと終わった。

この前、Nさんは一人で頑張っていた。
何人ものお客さんを一人でさばいている。TさんやAさんのようにはいかないが、随分レジ操作も早くなった。
凄いやん、と思って部屋に入って、頼んだアイスウーロン茶が来るのを待っていたら、Nさんがドアをノックした。
が、なかなかドアが開かない。
不思議に思ってこちらからから開けると、
「すいませーん…」
お盆に沢山のドリンクを載せたNさんが危なっかしく立っていた。思わずお盆を支えてしまった。
「えっと、これがウーロン茶だと…思うんですけど…」
忙しいので、いっぺんに済まそうと他の部屋の分と一緒に持ってきたものの、アイスティーと区別がつかなくなったようであった。
「多分これでしょう」
私は笑いながらウーロン茶とおぼしきグラスを取り、ありがとう、と言って彼女を送り出した。
ありがとうございます、と言ってニコニコ、ペコペコしながら彼女は次の部屋に向かっていった。
私のドリンクは、無事ウーロン茶であった。

Nさんの一生懸命なニコニコ顔を見るのは、最近の私の密かな楽しみになりつつある。
応援してます。頑張れ!Nさん。