小説 「火と水」

動くたびに、ベッドが鳴いた。甲高い不協和音が、部屋中を駆け回っていた。カーテンの隙間から、差し込む光が、僕の背中に当たってほんのり温もりを感じる。その光は、次第に2人の汗を同時に光らせた。

「ごめん、このベッド従兄弟から貰った古いやつだからさ」

「上にいるお母さんに、聞こえないようにゆっくりして」

頬を赤くしながら、濡れた前髪を人差し指と中指ですくいあげた。目を閉じると、よりいっそう、まつ毛の長さが際立つ。

僕は、後ろめたさを感じていないわけではない。ただ、僕が目の前で起きている事を深く追求する事を、意識的にしていなかったのだ。それは、自分を正当化するための最後の手段だった。でも、僕は分かってた。明日になれば僕は、深く傷ついている。きっとそうである。

そして、不協和音が次第に速さを増し、静かになった。

ベットの上で僕らは話した。

「私ね、ずっとヨシの事が好きだったの。」

「そうなんだ」

初めて聞くセリフに戸惑いを、隠せなかった。だが、毅然とした態度を保っていた。

「びっくりしないの」

「いや、全然」

僕は嘘をついた。

「告白したんだけど、待ってほしいって向こうに言われて。高校卒業したらって。
そしたら、なんだか冷めちゃったの。」

「そうなんだ。」

僕は、この話を聞きたいようで、聞きたくなかった。

「そしたら、私、好きな人できて。
でも、その人ヨシと同じ部活だから、なかなか踏み込めなくて。」

どうして、そんな回りくどい言い方なのだろう。僕は恥ずかしくなった。

「あの人、ちょっと怖いじゃん。もし、好きな人ができて、まして同じ部活の人なんて言ったら、どうなるかなんて想像もしたくない。」

僕は、前にヨシから相談を受けていた。
ヨシは、サッカーと恋愛の両立は不可能であると言っていた。
どちらかの比重が大きくなれば、自然と片方は、疎かになると。
無論、完璧な両立なんて、できやしない。生きていくためには、常に選択しなければならないんだ。と。

僕は納得していた。今考えれば納得していた、つもりだったのかもしれない。


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