小説 「桜華」

2

「起きて〜〜」

薄汚い声で目が覚めた。

2053年 3月12日 午前9時

妻は決まった時間に決まったセリフで僕を起こす。
顔には決まって白色のフリーメイソンのデザインの美容パックだ。

なぜだろう女という生き物は美に対しての探究心は思春期を超えてから留まることを知らない。そればかりか、それ以外の物事にもとてつもなく敏感に反応できる。
だから嘘はつけない。
最近は寝起きが悪い。酒なのか、生きてることへの疲労感から来るのか、どちらでもいい。
ただ、俺は疲れていた。
リビングには、娘と、娘の彼氏が2人でスマホに夢中だ。娘の彼は、革の上着を着て耳にはダイヤモンドが光っていた。
まるでイタイヤツの集合体だ。

「あ、おはよございまっすお父さん。ちょっとこれなんですけど、いい曲出来たんで聴いてくださいっマジでやべぇっすよ。」

毛先を人差し指で遊ばせながらいった。
白いカバーに入ったCDを受け取って軽くあしらった。妻はエクササイズのテレビに夢中でバランスボードの上で揺れてる。娘も相変わらず新しく出たとかいう人殺しのゲームに夢中だ。

いつも、リビングは居心地が悪い。自分の家なのになぜ居心地わるいんだ、なぜ気を使わなくてはならないんだ。別に娘の男が気に入らないじゃない。
ただ興味が、ないだけだ。

悶々として、実家にでも帰って懐かしい空気でも吸いたい気分だ。俺の人生は、なんなんだろうか。
どこから間違えてしまったのだろうか。
たいした、家にも住めたもんじゃないし、俺の親友は、テレビで日の丸を背負って戦っていた。いつからアイツと今の俺の差ができたんだろうか。
まったく思い当たらない訳ではないが、それ以上その事を追求するのを止めた。

また自分の部屋に戻り、横になった。
窓が開きっぱなしだった。そこから冷たい寂しいものが微かに入っては出るを繰り返していた。
一通のハガキが、ベットの横のイスに置いてあるのを見つけた。なんだと思いながら、見てみると同窓会の案内であった。

サオリの文字がある。懐かしい名前に、少し緩んだ。
卒業式の後、2人での会話を最後に彼女は九州へ引っ越しをしてしまった。
それ以来、僕は彼女に会えていない。でも今のままで俺はサオリに会える気もしなければ、情けない気持ちだけが僕を塞ぎこむに違いない。

気づいたらまた目を閉じていた。

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