小説 「火と水」

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バスから横断歩道が、見える。
赤信号で、止まっている5人が、全員携帯とにらめっこ。何を、見てるのだろうか。SNSで、誰かの事をあーでもない、こーでもないと批評しているのか、コンビニの店員の態度が気に入らないとか、母親が面倒くさいとか呟いているのか。
人の心情を可視化できるようになったいま、手軽にどこにいてもシンパシーを感じることが出来る。
それは、特に女性にとっては性格上とても便利な世の中になり、理性を保ちやすくなった。

あの件以来、ヨシと会うとき何だか変な感じがする。
僕は、常に何とも言えない気持ちを抱えていた。ちゃんと笑顔を作れているだろうか不安だった。たぶん、すごく不気味な顔になっていたに違いない。バレるのではないかといつも恐怖に感じていた。こんな事、いつまで続くのか。しかし、自然と、そのドキドキを楽しんでいる自分もいた。

「最近、お前がヨシといるところ見ないね」
「そうかな?」

練習の帰り道に、また田中と2人きりになった。
僕は、感覚的に避けていたのか。人から言われないと気づく事もあるもんだ。彼は、良い意味でデリカシーのない男だから、彼がいる事で、僕は自分を正す事が出来ているのかもしれない。

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