小説 「火と水」

❶⑥

11月に入ったある日僕は決断した。

なぜか、朝目覚めてから、今日言わなければという気持ちになった。

僕は、メールした。

指の震えが、告白した時の感覚と似ていた。

周りくどい言い方で、丸く収めようと考えたが、しっかりと、真っ直ぐで純白な答えで僕らの関係は終わらそう。そう決めていた。
携帯を開いてから、脈は異常なまでのスピードで波うっていた。

「僕らはもう、終わりにしよ。
リコは受験もあるし、僕らはこれでおしまい。」
「わかった。
今までありがとう。ごめんね。」

この一言で、僕らの関係は、終わりを告げた。

あれだけ長い時間を共有したが、この一言で終わったのだ。
あっという間にだ。

タケからの「ゴメンね」に、涙が溢れた。
自分でも、何で涙を流すのか理解が遅れた。

その時、走馬燈のように、今までの思い出が蘇った。

1年の頃から、リコに始めて連絡をもらった。
そこから、僕らは連絡を絶やす事なく続けていた。

体育祭の時、後ろのバックヤードで2人で写真をとったり、

鎌倉で2人で美味しいスイーツを食べた。

始めてキスをした、あの公園。

僕が、サッカーで上手くいかない時彼女は、誰よりも気を遣ってくれた。

「大丈夫だから。」

彼女の大丈夫は、なによりも説得力があった。
その大丈夫が無ければ乗り越えられなかった事は数えあげたらきりがない。
彼女は常に僕の支えだった。

リコとの記憶がオーバラップして、脳内を駆け抜けた。それが、涙腺を刺激した。

別れた途端に、その女が、美しく美化されるのは何でだろうか。

まだその女が、好きだからなのか。

自分のもので無くなった瞬間、「もの」は時たま価値を十二分に発揮をする。
しかし、それは、また一つの幻想にすぎない。
また自分のものになれば、その輝きは失われる。
何て残酷で、荒んでいるんだろうか。

あれだけ、手に入れたかったのに、いざ自分のものになると、何だか物足りなくなる。

あれが、リコとの最後のメールになった。

いつだって終わる時は、一瞬だ。

あのやりとりを最後に、連絡先を消した。

僕らの2年間がこの日終わった。

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