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西洋美術雑感 17:ルーカス・クラナッハ「景色の中のヴィーナス」

北方の絵画を続けよう。これはルーカス・クラナッハ。
 
宗教改革のかのマルティン・ルターのお友だちで、教科書にも載っているおなじみのルターの肖像はクラナッハのものである。画家として名士として揺るぎない地位を築き長寿だった彼は、まさに大御所の威厳をもって、宗教画から肖像、寓意画まで数多く描いているが、少なくとも僕がクラナッハと言うと、一連の女性の裸体を描いた作品をまず上げる。一目見てクラナッハとわかる非常に個性的な姿なのである。
 
ここに上げたのは「風景の中のヴィーナス」で、これを見てどう思うかはさまざまだと思うが、僕の感じを先に率直に言ってしまえば、これは極めて性的な絵だと思う。それで、特にこの絵だけそうだ、というのではなく、クラナッハの描く女性のヌードはほぼどれもこのような体形で、このような顔なのであって、それはもう、彼のある特殊な好みを反映しているとしか、思えない。
 
モデルは、思春期を迎えたばかりの、当時であれば15歳ぐらいの少女であろうか。小さな胸と、だいぶ高いくびれた腰、陰毛もまだ生えておらず、若者らしくしまった太腿と、きれいにまっすぐに伸びた脚、全裸の体にネックレスを付けて帽子をかぶり、カールしたブロンドのロングヘアの女の子。これを女神のヴィーナスになぞらえるのがいいのか悪いのか。これが芸術作品として認知されていなかったら、ちょっと公に出すのを憚らないだろうか。
 
そして、目が吊り上がって、あごが細く、頬骨の高い、何を考えているか分からない、冷たくてミステリアスな感じの表情は、見まごうことのありえないクラナッハの描く女の顔である。
 
西洋の画家は伝統的にみな、神話やらキリスト教やらにかこつけてやたらと女の裸を描きまくるのであり、僕もいやというほど見てきたが、クラナッハの女は別格で、似たものが他になく、しかも群を抜いてエロい(と思う)
 
こういうエロチックな裸が次に出てくるのは、ゴヤの裸のマハぐらいまで待たないといけない。
 
やはり北方の絵画に、根の深い、底の底に隠された悪徳のようなものが感じられないであろうか。もちろん、それだからこそ魅力的なのだが。


Lucas Cranach the Elder, "Venus in a Landscape", 1529, Oil and beech wood, Louvre Museum, Paris, France

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