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西洋美術雑感 34:ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」

この絵は僕が初めてセザンヌの絵の美しさに正しく気付いたものだったような覚えがある。それまで、彼の絵を画集でもたくさん見て、その後、パリのオルセー美術館をはじめ、実物をたくさん見たはずだけど、どういう見方をしていいかよく分からなかったらしい。
 
この絵はセザンヌがパリを離れて郊外へほとんど引き籠り、黙々と製作を続けていたころの作品で、このサント・ヴィクトワール山を彼は、晩年に至るまでたくさん描いている。これはその一つで、彼の最晩年の作に相当し、実物は東京のアーティゾン美術館にある。
 
僕がこれを見たのはだいぶ前だが、そのころはまだブリジストン美術館という名前だった。そこで、これを初めて見て、その美しさに驚いた。そのとき自分は初めて、彼が特に後半生の画布で使った、1センチ角ぐらいの色面を緊密に積み上げ調和させて行くその手法の意味に気付いたのである。そのときに思ったのは、空の一角に塗られたほんの狭い面積の青だった。その純度の高い生のままの青を塗るために、全体の色を調整に調整を重ねて、最後の最後に残ったところに、その青を塗ったように感じられたのであった。
 
残念ながらこのデジタルデータではうまく表現できていないが、先日久しぶりにアーティゾン美術館で実物を見て、やはりそれは美しかった。自分が大昔に感嘆した青は、あれ? これかな? とか思いながら見ていたけど、しばらくして、ああやはりこの青が素晴らしいと思った。再三だが、このデジタルではちゃんと写っていない。
 
この絵になると、黄土色に塗られたシャトー・ノワールと山の輪郭だけがデッサンで、他に形状と思えるものはなく、色面の緊密な調和が全面的に出ている。特に彼の晩年は、ますますデッサンが隠れ、画布の上で色面がバイブレーションを起こし続けている抽象画のようになる。
 
一方、彼が室内で描く静物画の方は、林檎をはじめとする果物の絵と、なんだかよそよそしい感じの肖像画の数々が有名で、こちらの方には色面による表現はあるものの、デッサンの見せるコンポジションが明快である。しかし、そのコンポジションもなかなかに奇妙で、微妙に安定感を欠いていて、その独特の構成はその後の現代美術へ受け継がれて行く。そちらについてはまた別途書くことにする。


Paul Cézanne, "Mont Sainte-Victoire and Château Noir", 1904-06, Oil on canvas, ARTIZON MUSEUM, Tokyo, Japan

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