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西洋美術雑感 8:フランソワ・ブーシェ「褐色のオダリスク」

そのむかし西洋絵画に夢中だったころ、自分のメインの興味は不気味なゴヤだったり、行き過ぎたリアリズムのカラヴァッジオだったり、前期ルネサンスの奇妙な宗教画だったり、いろいろだったのだが、おしなべて自分は奇妙なものやシリアスなものや、なんか、こう深刻で高尚な芸術にあこがれがあり、そういうことについて語ることが多かった。

これはまたのちほど書くつもりだが、僕が西洋古典絵画に惹かれるようになったのは、上野でゴッホの絵の本物に初めて出会ったのがきっかけだった。そこで僕はまず、彼の一枚の絵に釘付けになり、そのものすごい色彩に麻薬中毒患者みたいになってしまったのである。つまり、僕の絵画の入り口は純粋に「色彩」だったのであるが、だいたいが色彩に高尚も深刻もへったくれもないわけで、完全に関係がない。

そんな僕は、実は、その美しい色彩がゆえに、ロココの絵も好きだった。よく、なんでお前、ロココなんか好きなんだよ、ぜんぜん一貫しないやつだな、とからかわれたりもした。でも、好きなんだからしかたない。

その僕が、特に好きだったのがフランソワ・ブーシェであった。ロココなんて、単に貴族的快楽を追及したきわめて軽薄で鼻持ちならないブルジョア芸術だ、と片づけることももちろんできるのだが、しかし人間、快楽にはかなわない。

自分の感覚に正直になってみると、ブーシェの色彩の美しさには、本当にうっとりする。ここでは、いちばんアホっぽい「褐色のオダリスク」を上げてみた。

もう、こんなに、ひどいけど美しい絵もない。まるで豪華なご馳走の山である。裸の女の肌の透き通るような肌色と、淫らな肢体、快楽に耽り過ぎてところどころ赤みがさした体、むちむちなのに幼い可愛らしい童顔、どれを取っても、これって、いま現代、芸術と称して公然と公共の場に掛けといて、いいんですか? と言いたくなるほどエロ満載である。

そして、その女が横たわるベッドにかかったこの青いビロードの布の美しさは、これも異常である。残念ながらディスプレイ上ではちゃんと再現は無理で、ルーブルへホンモノを見に行かないと分からないのだが、こんな美しい青は現実のどこにもない。

しかしフランソワ・ブーシェっていうおっさんは芸術にかこつけてこんなエロ画ばかり描いている。たいしたものである。しかし、そこに使われているテクニックは高度で完璧である。しかしまあ煩悩以外のなにものでもないね。でも美と快楽には、勝てません。

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François Boucher, L'Odalisque Brune, 1743, Oil on canvas, Musée du Louvre, Paris

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