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【連載】西洋美術雑感

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このnoteの記事が本になりました。ペーパーバック版もあります。 https://www.amazon.co.jp/dp/B0C6ZQ4TGY この本は、13世紀の前期ルネサ…
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2022年8月の記事一覧

西洋美術雑感 30:ミレー「晩鐘」

印象派の絵画へ移る前に、バルビゾン派の絵画を紹介しておこう。中でもこのミレーは日本でもなじみが深く、ほとんどの人が知っているであろう。バルビゾンはパリから少し下ったところにある小さな田舎町だが、ここにかつて幾人かの画家が集まり、その広大で静謐な土地の風景画を多く描いたのである。そこでは主題は風景の方で、かつての西洋絵画のような宗教でも神話でも歴史でもない。   ここにあげた絵はミレーで特に有名な作品のひとつの「晩鐘」である。絵の中の農民二人の姿を見て、これは人間が主題ではない

西洋美術雑感 29:クロード・ロラン「日没の港」

長い西洋古典絵画の歴史において、ただ自然だけを描いた絵というのはだいぶ後になって現れた。それはたとえば、フランスのミレーやコローといったバルビゾン派の画家たちが描いた、情緒に溢れる広大な土地の風景画あたりまで待たないといけない。それまでの絵画では、そこには必ず、神話の主題があり、宗教的な主題があり、なんらかの人間劇があり、物語があった。そして、自然の風景はその物語の舞台として描かれたのであって、その物語となにかを共感して共有するがごとく、物語の注釈としての役目を果たしていたの