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乱読のすゝめ【メガトン級「大失敗」の世界史】

雑学読本は楽しい。いらない知識を雑に詰め込んだ無責任な娯楽である。
読んでも仕方がない。いらない知識を積み重ねるだけだ。でもたまにはいいじゃないか。元もと乱読で雑に本を選んでいるんだから。
雑学モノでありながら、世界27か国で刊行された本書は、著者がアメリカ人の翻訳物である。僕の感覚では雑学モノってお手軽書籍で、出ては消えていく消費材だとの認識である。それが世界各地で出版され日本語にまで翻訳されるってどういうことだ。
ひょっとしらそもそも雑学モノではないのかもしれない。

メガトン級「大失敗」の世界史 トム・フィリップス著 禰冝田亜紀訳
正直、本気で雑学本だと思っていたので、面白雑学が延々と羅列されているのだろうと思い読み始めたのですが、読み進めると思っていたのとちょっと毛色が違う。
テーマごとに章立てて、いくつかの「大失敗」をベースに語り人間がいかに失敗をする生き物かを追求していく。そして章の終わりにその章のテーマにそった面白雑学として失敗をいくつか最小限で説明する。
序章、1匹のメス猿が木から落ちて亡くなる。猿の名はルーシー。
人類最初の失敗である。
本書は「大失敗」を考察することで、個人ではなく人間全体の愚かさを語っている。衝撃的な失敗を引き起こす人という種の愚かさを突き詰めている。
4章で専制君主制、5章で民主主義。
特に4章はトルコの余りにも残忍な皇帝が必然的に生まれているあまりにも愚かな「失敗」が語られている。なぜそいつが皇帝になるんだと理解できない。トルコの皇帝は皇帝になるととにかく兄弟を殺す。何かにつけて理由を付けて殺す。だけど全員殺していたら跡継ぎが途絶えかねない。そんな中でも殺されるのを逃れたものを黄金の鳥かごってとこに閉じ込める。この鳥かごは決して出れないが、それなりに贅沢に暮らせる。酒に女に阿片、そして死の恐怖。そんな状況でまともなままの人間なんかいない。
異常な皇帝を生み出すためのシステムだとしか思えない。
そうとてつもなく残忍な皇帝が引き起こす「失敗」が書いているようで、残忍な皇帝を生み出す体制であることの「失敗」が書かれてあるのである。

多くの「大失敗」は実は人間が種として抱える根源的な「大失敗」なのである。

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