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師走へ

ずいぶん久々にダウンタウンに出た。
ヤンゴンの中心街だけあって、近所に比べればさすがに人通りは多い。しかし、通行人の隙間を縫うように歩かなければならない平時と比べれば、明らかに“人の波”は細く、その歩きやすさに文字通り「肩透かし」を食らった気分だ。

JICAやNHK、日系の大手企業が入るビルの中でも、行き交う人はまばら。14時前のこの時間、闊歩するビジネスパーソンらの忙しなさが奔流の如く流れるいつもの風景は見られず、穏やかな「せせらぎ」だけがあった。

ガラス越しに見える室内に人影は薄く、フルリモートに切り替わったことを濃厚に示唆するオフィスや、撤退後の跡地が伽藍堂と化していた。噂には聞いていたが、その情景をいざ目の当たりにすると、なんとも複雑な心地になった。

*久しぶりに乗ったエレベーター。こんなルールがあったのか。

ヤンゴンに来て以来お世話になった店で、すでに閉店や売却を決めたところもいくつかある。耳に入らないだけで、ローカルの店も含めれば、その実数が夥しいものになろうことは容易に想像がつく。残念で仕方ない。

最近では、タイとの間での不法入国者たちが新型コロナを媒介している事実も明らかになり、ただでさえ不穏な当該地域は、その混迷をより一層深めている。

そんな暗いニュースに気落ちしながらも、給料日の今週は従業員が全員出勤して元気な顔を見ることが叶ったし、今や月1となってしまった、敏腕シェフの食事にもありつけた。また、こんな中でも少なくないご寄付をくださる方がいたりと、心がじんわりする瞬間もあった。

加えて、日本人同士の団結も再び輝いた。
10月に緊急手術となり、現在も入院されている方が2度目の緊急輸血が必要となり、前回同様、迷わず駆けつけた方々がいらした。

招集が出たのが22:30。検査から輸血までの時間を考えると、夜間外出時間帯の24時前に帰宅することはまず不可能だ。居住地によっては、往復が間に合うかどうかすら怪しい人もいたはず。しかも、翌日は平日だ。
「病院泊上等」と肚をくくって集いし勇者たちに、心から敬意を表したい(私は前回血液提供をしているため、3ヶ月インターバルの都合上、今回は候補者から外れた)。

誰もがどこかで支え合っているのだ。
喜びと悲しみは、時に表裏一体となり得る。天を仰ぎたくなるその瞬間に、初めて感知可能な誰かの優しさがあるのかもしれない。悲喜交交の渦中にあって、ふとそんなことが頭をよぎった。

スーパーにはクリスマスの装いが登場。
冬の寒さと同居しない分、どうしてもそのリアリティが薄く感じられがちなミャンマーで、今年はさらにその色は褪せてしまうものの、ささやかな年の瀬気分に浸る。

さて、一体どんな師走になるのやら。そんな思いとともに、踵を返した。

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