やっぱりあなただった、2【feat.メガネくん】
無色。連想するのは白。
初めて会った時、変な人だなと思った男もまた「無味無臭」だった。
〈異性の香すら感じない男は、どんなボールでも打ち返した。不安になって打ち込むことしかできない自分の打球を、全てきちんと返すのだ〉
やっとその正体が明らかになる。キャッチにもたぶん段階があって、
「7割」、「速さ、弾道を合わせる」そうして「落とす」下から順に「自我」「相槌」「コントロール」
気持ちよく打てる人ほどスピードを落としてくる。「ゆっくり」確実に手元で掴んでコントロールする。それは「掌握」だった。だから私は楽しくその手のひらの上で踊り続けていたに過ぎない。
掌握。いつだったかi野コーチが「支配」という言葉を口にした。
〈打てるのは分かった。君は充分ストロークで戦える。だから次は視野を広げよう〉
〈緩急だよ。相手のコートに穴を作る〉
当時の「分かる」は限りなく浅瀬だった。出来の悪い生徒が、一年かけてやっと理解に至る。でもこの「ごめんね」には改善の余地がある。
「ゆっくり」と言った。i野コーチは「ゆっくり」なボールを配球する。練習ならまだしも、試合となるとそれは心拍数に合わず、最も嫌なショットになった。
分かっていてできないことがあって、それは何より「不安要素を残して次に移ること」だと思う。「こっちが正しいのは分かるけど、これもできてないのに」というのは、周りから見た優先順位以上に、課題を残すことに対する個人に終始するストレスからくるもの。
これはたぶん仕事でも同じことが言えて、自分の仕事をしている最中に他の人から頼まれ事をした時の対応と等しい気がする。分かっててすぐ舵を切れる人は融通がきき、その分成長が早い。
一方融通が効かない私は、緩急以前に本番でびびってスライスに逃げないか、打ち込める潔さはあるかだけに意識を集中させていた。スタートがまずそこからだった。理想はビッグサーバーとメガネくんのしていたラリー。弾道も回転量も違うのに、安定したやりとり。何より本番でそれができることに憧れた。けれど。
緩急。
「ゆっくり」と言われてやっと「ゆっくり」に意識を向けられるようになったのは、私の融通に変化があった訳ではなく、純粋に「これもできてないのに」がクリアされたため。
両方のクラスを担当するi野コーチは、どこか似てると思ったのかもしれない。確かにピンクにも白の要素はあった。
打ってよくしょげている、自罰傾向の強い2人。
ビッグサーバーとメガネくんのラリー。きちんと合わせてそれなりの球威でするやりとり。玉ちゃんがそれを叶えてくれた。能動のサーブから始まるラリーは、きちんと主体性を持つ。張りが出る。
〈打てるのは分かった〉
そう言われたあの時と、それは必ずしも同じではなくて。
人はやさしくされたらやさしくする。玉ちゃんは合わせてくれるから、私も無意識に合わせようとしていた。結果続く。このこと自体、相手が玉ちゃんだから発生するやりとり。そうして限定的とはいえ、「できた」というのは容量を空ける。次の声に耳を傾ける余裕を生む。そこからの「ゆっくり」だった。
そうして仮に「ゆっくり」を課題に置いたとした時、じゃあ初級で私の求める「ゆっくり」が得られるのかという話になる。ゆっくりというのは、ベース速さから生まれるものであって、その速さと称するものを初級に求めるのは違う気がした。
初級に行く意味。呪霊錠ありきだとして、じゃあプラスそこで何を学ぶか。〈僕が担当する初級ではここから始める〉の「ここ」はこの時聞いた。テイクバックと、スプリットステップと、横に走らされた時の動きと、打球の角度を変える時のポイントも同時に聞いた。いかんせんその時は少人数だったから、合間の時間が長く、結構聞いた。自然生じるのが「充分じゃね?」という感覚。
もらったら反復で浸透、定着させる。それなら何もわざわざ初級に向かわずとも、今いるクラスでもできる。いたずらに「おうち帰りたい」となって心拍数凪でプレイしたところで何もならないし、何より単純に失礼だ。
あ、打ち方キレイキレイじゃない問題か。KPに聞いたら「いや、汚くはないと思うよ」と返ってきた。キレイではないようだが、今はそれは後回しでもいい気がしてる。余裕ができれば自然に得られるものもあるだろうし、必ずしも優先順位高めである必要はなさそうだ。という訳で。
結論。「現状維持。ただし呪霊錠は装着」で一旦着地とする。
2日連続の受講は結構堪える。前は2コマ連続とかいけたんだけどなあ。いつだって体力問題はついて回る。コマを終えると帰路に着く。