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四角いリングに魅せられて

この荒野で戦い続けることを決めた彼女たちに、ありたっけの拍手と祝福を送りたい。

これは尾崎ムギ子さんの新刊『女の答えはリングにある』に寄せられた西加奈子さんの推薦文だ。

この一文を目にした時、何というプロレス讃歌であろうと心に刻み込まれてしまった。
プロレスファンはいつもプロレスラーに自分を重ね、夢を追い、心の中で一緒に戦い、励まされてきた。

本書では、著者自身がボロボロの状態からプロレスに魅せられ「最強より最高」とWEB記事に記載され炎上したことをきっかけに「強さ」を追い求め、レスラーにインタビューを数珠繋ぎに行った前作「最強レスラー数珠繋ぎ」を経て、再度ボロボロになってしまった著者が女子プロレスに出会い、今度は女子プロレスラーにインタビューを行っている。スターダムからマーベラス、センダイガールズプロレスリングまで様々なプロレスラーにインタビューを行っている。

前作も新たな観点からのプロレス書だったが、今回も著者の女性目線で斬新な切り口から出される質問に対してレスラーが自分の言葉で言葉を紡いでおり、面白かった。
(個人的には中野たむが大仁田淳と絡んでいた時期についてもしっかり言及していて、黒歴史じゃないんだと何故かほっとした気分になりました…)

プロレスラーの強さに著者は魅せられているが、僕自身はプロレスの何に魅せられているのだろうかとふと考えてしまった。至った結論はプロレスというジャンルそのものであるということだ。

プロレスはフィクションとノンフィクションの境界線が極めて曖昧な特殊なスポーツだ。しかし、これこそが魅力の醍醐味であり、味わい深い本質と言える。
「プロレスはどこまでが作り事なの?」そんなことを聞かれることもあるが、「プロレスはどこまでもリアル」なのである。戦っているレスラーは体を張って戦っているし、マイクも己の言葉で吐き出している。だからこそ、プロレスファンは自分自身をレスラーに重ねるのだ。

強さの中に「弱さ」や「綻び」が垣間見える瞬間にどんなに強いレスラーだって自分と同じ人間なのだと思わされてしまう。その瞬間に更に自分を同化させてしまう。

GWにNHK FMで9時間プロレス入場曲だけで語り明かす特番があった。入場曲は自分を奮い立たせてくれるし、過去を思い出させてくれる。
プロレスは歴史を知らないと難しそうという声を聞くこともある。しかし、プロレスはいつだって今が一番面白いのである。新日本には黒船がやってくるし、NOAHも過去最大のXがやってきたし、大谷晋二郎が立ちあがろうとしている。過去を振り返るのは後からだって全然構わないと思う。

かつて、週刊ファイトの名物編集長I編集長こと井上義啓編集長はプロレスを「そこが丸見えの底無し沼」と語ったが、その沼にズブズブに浸かってしまった僕は一生抜けることはないだろう。これからどんなに辛い時においても3カウントだけは聞かないように生きていきたい。5カウントまでは許される反則を使いながら。

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