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創作

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詩とか、小説とか。ノンフィクション、フィクションごちゃまぜ。
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#恋愛

あなたの心音を、今でも憶えている

夏になると思い出す、ある初恋のこと。 遠く離れた距離と忙しい日々。 直接会えるのは半年に一度だった。 初めて恋人として会った冬の日。 「次は抱きしめてあげる」 世界の全てに怯えていた私に、あなたは約束してくれた。 それからちょうど半年後の夏、二度目の逢瀬。 電話では毎日話しているのに、いざ会うと緊張してか少しよそよそしい。 私も、意図的に距離を取ってしまっていた。 そして互いに触れられないまま、別れの時間が近づいた夕暮れ時。 あなたは私の手をぐっと引いて。 約

【小説】死にたがりちゃんとストーカーくん

 かなり昔に建てられたうちの学校の屋上の柵は、幸いにもわたしの胸ほどの高さしかなく、内履きの靴底の摩擦力を利用してよじ登ると、あっさりと向こう側に立つことができた。  しかしいざ立ってみると、当然ながら人が立つことを想定されていない狭い足場と、地面までの距離を生々しく感じ、先程まで興奮気味だったわたしの心は一瞬で怯んでしまった。けれど頭は至極冷静で、背後の柵を掴んでいる手を離して、十五メートルほど下にあるアスファルトの舗装路に自分が打ち付けられる瞬間のことを他人事のようにイメ