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せいかつ


八月最初のライブでは、ノルマを達成できなかったという私自身の実力不足で無職だった私の口座の9割が消えた。

その日は心底落ち込んだ。

帰りの電車ではヘッドホンを付けるのを忘れるくらい。

急に音楽の道の厳しさを知らされたようで、今までにないほど気弱で臆病な自分が出来上がったのを感じた。

そのあとはやけ食いして現実から逃げるように眠りについた。

いつもなら朝まで音楽漬けの日々だったが、
どうしてもギターに手が伸びなかった。





翌昼、嫌な目覚めだった。
何か嫌な予感がした。

寝ぼけて視界がぼやける中LINEを開くと、

友達からスクショと「ねえこれ」というメッセージ。


Cody・Lee(李)から尾崎リノが卒業するという知らせだった。


もう、真っ暗になった。


言葉が出なかった。


一日中ぼーっとして、何も考えたくなくて、無心で働いた。

そんな日に限って3時間のシフト。

直ぐに現実に帰ってしまった私は、
気が付くと家の周りをふらふらしていた。


ソロ活動とせいかつに専念するとのことだったから、
応援する気持ちはあった。


ただ現体制のCody・Lee(李)は、私にとって音楽の道しるべだった。

沢山の音楽を聴いてきた中で、本当の意味で一番好きな音楽に出会った。
男女ツインボーカルで、生活感のある響さんの歌声。
細くてまるで天使のような語り口調の尾崎リノさんの歌声。
アコースティックギターの優しい響き。
カッティングがきいた鋭いギター。
かっこいいのにどこか柔らかいベース。
曲を邪魔しないのによく聞くと独特なドラム。

全て、愛していた。


古参ファンでもないし、現体制になる前の
Cody・Lee(李)は見たことない。

それでも、どうしても、好きだった。


言っては難だけど、同じような曲調が量産される時代。

その中でこんなに魅力的な音楽を生み出す人たちが
いたことに感銘を受けた。

出会ってからは毎日、自分で作ったお気に入りのプレイリストを繰り返し聴き、新曲が出る前の日はワクワクで眠れなかった。

こんなに好きだとずっと聴いていたいと
思う音楽は初めてだった。


それが、なくなった。




目の前が、私の音楽の希望が、なくなった。




解散ではなかった。



でもなくなってしまった。





バイトで送別会配信が見れなかったが、SNSに載せていた響さんから尾崎リノさんへ書いた手紙があげられていた。

涙が止まらなかった。
そのあとは朝が来るまで、かおがぐちゃぐちゃになるまで泣いた。




BGMは、羊を抱く夜に/尾崎リノ




あの日からしばらく、Cody・Lee(李)を
聴けなくなってしまった。



物足りない生活を送る日々、沢山の音楽を聴いた。


沢山いい曲、アーティストに出会えた。


ただ、物足りなかった。


時間がたって、ふとCody・Lee(李)を聴いてみた。
涙が止まらない。

全部良い。

もしこの先どんなバンドに出会っても、どんな曲を見つけても、

この人たちの曲に勝る音楽はない。


私はCody・Lee(李)が好きだ。
その日からまた、毎日欠かさずCody・Lee(李)を聴いている。


出会ってしまったものは変えられない。
なくなってしまったものは取り戻せない。


でも、私は出会えた。


働くのが嫌、電車で帰るのが嫌、いつまでたっても過去がちらつく

満員電車の中にいれば、所詮ただの人でしかない。


それでも諦めるには、音楽の虜になりすぎているから遅い。


それなら、こんどはわたしがその出会いになりたい。

何もできない私でも、
曲は作れる。歌詞は書ける。歌える。



この二日間の出来事がちっぽけに思えるくらい辛い状況は生きていれば訪れると思う。それでも、いい。




ここからまた、

わたしのわたしによるわたしのための

"せいかつ”が始まった。






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