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断面二次半径の感覚的理解

別項で、細長比断面二次モーメントについて考えてきた。

物体の細長さ・図太さを表すのに長さと太さの比率で表すと感覚的にもしっくりくる。構造力学の専門用語として細長比$${λ}$$(ラムダ)があり、長さ$${L}$$と断面二次半径$${i}$$の比率で表す。

$$
λ=\frac{L}{i}
$$

太さを表す際に、円柱、角柱、それ以外の任意の形の断面をもつ際に、共通の指標とする必要があり、そのために断面二次半径$${i}$$を用いると都合がよい。では、その太さを表す断面二次半径とはどういったものであろうか。断面回転半径(radius of gyration)とも呼ばれ、結論としてはその方がイメージがつきそうだが、土木工学の構造力学では前者で表現されることが多いのでそのまま表記する。

$$
i=\sqrt{\frac{I}{A}}
$$

断面二次モーメント$${I}$$を断面積$${A}$$で除したものの平方根である。

半径と名がつくのであるから、例えば円の場合、断面二次半径と円の半径とはどういった関係になっているのだろうか。

円と正方形の断面二次半径の計算結果

実際に計算してみると、半径$${r=5\mathrm{mm}}$$の円の断面二次半径$${i=2.50\mathrm{mm}}$$となり、半径$${r=5\mathrm{mm}}$$の$${50\%}$$の大きさになった。1辺$${10\mathrm{mm}}$$の正方形の断面二次半径$${i=2.89\mathrm{mm}}$$となり、正方形の半径という値はないが1辺の半分の$${5\mathrm{mm}}$$を基準にして$${58\%}$$程度となった。なぜ半分程度になるのだろうか。

断面二次半径について、図を用いて説明している例は少ないが、次のような模式図で説明されているウェブページも見られる。ある軸から面積の重心までの距離を回転させる、すなわちある軸周りの断面二次モーメントを求めれば、軸から重心までの距離が断面二次半径である、と。

断面二次半径の理解

$$
I=A \times i^2
$$

を$${i}$$について解けば、次のようになる。

$$
i=\sqrt{\frac{I}{A}}
$$

以上は、円や長方形といった中実の断面を考えてみたが、I形断面を考えてみる。比較のため同じ高さの長方形も含む。図4~図7の4つの図形は、全て断面積が$${1400\mathrm{mm}^2}$$である。図形5は高さが100mmでその上下端に10mmの板(フランジという)がついている。ウェブ(腹板)は板厚5mmである。図形6は、ウエブの板厚を1mmへ減らしてその分フランジの量を増やしたものである。図形7はウェブをなくし、上下のフランジを薄くしたものである。

同じ面積のI形断面

それぞれの図形の断面二次モーメント、断面二次半径を計算した結果を次表に示す。

計算結果

断面4は長方形断面であるが、高さの半分に対する断面二次半径iの割合は、58%で、前述の正方形の場合と同じである。結果として長方形断面は一律58%となる。

上下フランジ付近に断面を集めようとした図形5では断面二次半径の重心からの距離に対する割合が80%、さらにフランジの面積を増やした図形6では88%と向上した。さらに、ウエブをなくしフランジのみにし、フランジの厚さも薄くした図形7では、98%と近くなった。

断面積が同じでフランジの厚さを限りなく薄くすれば100%に収束することになる。今回は半径という理解のために、円の半径に相当する全体高さの半分を基準としていたが、軸を同じとする断面二次モーメントは同じ距離のものを足し合わせることができるため、下図のように軸に対して1方向に全ての断面積が集中しているとして差し支えない。

すなわち、断面二次半径とは、次のように図形的に、感覚的に理解することができる。

断面二次半径の理解

ある断面(断面積A、断面二次モーメントI)の断面二次半径iというのは、高さが極限に0で同じ断面積Aを有する物体に軸からある距離だけ離れた時の断面二次モーメントが同じIであるとき、その距離のことを指す。種々の複雑な断面を単純化した際の軸からの平均的な距離ともいえる。

工学的な理解は次のようになる。曲げにくさは断面二次モーメントで表すことができるが、その値を増やすには、断面積を増やす、形状を工夫する(できるだけ重心からの距離を離した断面を構成する)、の2つの方法がある。その中でも、断面積を極力増やさずに、形状を工夫して断面二次モーメントを増やすことが賢い。断面二次半径とは、断面の形状の工夫であり、すなわちある断面積を用いた際の断面二次モーメントを増やすための効率とも表現できる。式そのものの説明と合致するが、断面二次モーメントを面積で除して正規化した値であり、断面二次モーメントのうち面積の項を正規化したものである。

断面二次半径は、冒頭のように細長比の中で使われることが多い。細長比はある長さをもった部材の曲げやすさの指標であると別項で述べた。断面の大きさと併せて評価する必要があり、細長比は曲げやすさの効率と表現できる。効率なのでそれだけでは使うことはできず、断面と一緒に使われる指標である。

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