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琥珀集・蔵出し

祖母

八十すぎの祖母が死んでしまったなら
祖母はもうこの世界のどこにもいなくなる
家の中にもものかげにも畑にも
背をまげて働く祖母はいなくなる
厚着をして灰色の鞠のようになって
それでも働きまわる祖母は
どこを探そうと大声で呼ぼうと
もう空の彼方 菜の花の中
字も知らず耳も遠く
一日ひとりで片付けをし
夜は夜で食器を洗う
顔が腫れ足がむくもうと働きつづけ
ぼろ切れのように横になってえらがり
私たちが気づかぬうちに一歩一歩命の糸は切れ
祖母はひとりで耐えている
なくなってしまうこと
私たちと別れて旅立つあの世のこと
引きちぎられるような寂しさ
私が嫁をもらうまでは生きていたいと
私たちを最後の力で愛し
働きなれたからだで尽くしつづける
一人寂しい痛みに耐えて誰もいない昼間
たった一人で家中を掃除して歩き
夕方体中腫れて横になり
そうして一歩一歩神様に近づき
天道虫のように極楽の花園に昇ってゆく
祖母よ あなたは生き続ける
私たちの生涯を守り続ける


■画像はヤフー、琥珀画像より。

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